化学療法に伴う貧血管理のために赤血球造血刺激因子製剤を投与されているがん患者に対する鉄の役割について

レビューの論点: 化学療法に伴う貧血と診断された患者の貧血管理には、鉄補充のみ、または赤血球造血刺激因子製剤(ESA)に鉄を追加したほうがESAのみによる治療よりも優れているのか。

背景: 現在、化学療法に伴う貧血の治療には、赤血球の産生(赤血球造血)を促すESAか、場合によってはESAと鉄の両方が用いられている。または、治療をしないという選択や患者の状態を臨床的監視(人による監視)によって経過観察しつつ赤血球輸血を行うことが安全で適切な選択肢となる場合もある。そこで、化学療法に伴う貧血の管理での鉄補充の有益性と有害性を評価することを目的として系統的レビューを実施した。

検索期間: これは2016年2月現在のエビデンスである。

試験の特性: ESA+鉄とESAのみを比較したランダム化比較試験8件を対象とした。いずれも企業が資金提供しており、登録患者数は2,087例であった。鉄のみとESAのみを比較した試験はみつからなかった。

試験の資金提供元: 対象とした試験はいずれも企業が資金提供したものであった。

主要な結果: ESAに鉄を追加することによって、化学療法に伴う貧血が認められる患者の造血反応が改善する。ESAに鉄を補充すると輸血の回数が減少し、ヘモグロビン値が改善する可能性がある。鉄補充によりQOL(生活の質)が改善したというエビデンスはなかった。造血反応までの時間および静脈血栓(血液の塊)ができるリスクに関して、化学療法に伴う貧血のためにESA+鉄の治療を受けた患者とESAのみの治療を受けた患者の間に差があったことを示すエビデンスはみつからなかった。治療関連死について4件の試験が報告していたが、参加した997例のうち、死亡例はなかった。その他の有害事象には便秘、嘔吐、下痢が含まれ、各発生頻度はESA+鉄とESAのみとで同等であった。生存期間を報告した試験はなかった。

エビデンスの質: 造血反応に関するエビデンスの質は高かった。赤血球輸血に関するエビデンスの質は、(各推定を統合した)統合推定値のばらつきが大きかったため、中等度であった。ヘモグロビン値の変化や造血反応までの時間に関しては、統合推定値のばらつきが大きく、試験によって結果に差があったため、エビデンスの質は低かった。QOL(生活の質)に関するエビデンスの質は高かった。静脈に血栓ができるリスクに関するエビデンスの質は、統合推定値のばらつきが大きかったため、中等度であった。対象となったランダム化比較試験の追跡期間が短かったため(20週間以下)、鉄補充による長期的効果は不明であった。

訳注: 

《実施組織》一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)『海外癌医療情報リファレンス』(https://www.cancerit.jp/)関口百合 翻訳、野﨑健司(大阪大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科)監訳 [2019.07.28] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン・ジャパンまでご連絡ください。 なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD009624》

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