レビューの論点: 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)による不妊症の女性に用いるアロマターゼ阻害薬に関するエビデンスを検討した。
背景: PCOSは、希発月経や無月経の最もよく見られる原因であり、全世界の女性の約5%~20%が罹患していると言われている。それはしばしば排卵障害による不妊症の原因となる。アロマターゼ阻害薬は、排卵を促すために用いられる。2001年頃以降、アロマターゼ阻害剤であるレトロゾールの不妊治療における効果についての臨床試験が行われているが、最も一般的に使用されるクロミフェンクエン酸塩と比較して少なくとも同等の効果があるかどうかについて、結論は一致していない。
試験の特徴: レビューには、参加者が無作為に介入群(レトロゾール)か対照群(クロミフェンクエン酸塩など)に割り付けられた臨床試験を組み入れた。これらの試験はランダム化比較試験と呼ばれている。このレビューには、6,522人の女性を対象とした41件のランダム化比較試験が含まれる。すべての試験で、用いられたアロマターゼ阻害薬はレトロゾールであった。対照群では、26件のランダム化比較試験でクロミフェンクエン酸塩が用いられ、4件のランダム化比較試験では腹腔鏡下卵巣開孔術(排卵を促すために行われる外科的処置)が行われた。他の治療法を行う試験もいくつかあった。
主な結果: レトロゾールは、排卵誘発周期でのタイミング療法において、クロミフェンクエン酸塩と比較して出生率と妊娠率を改善するようである。流産率や多胎率には差がないようだ。卵巣過剰刺激症候群(OHSS)はホルモン刺激による重篤な有害事象だが、非常にまれにしかおこらず、ほとんどの試験で発症例がなかった。これらすべての結果について、エビデンスの確実性は高く、信頼できると思われる。
腹腔鏡下卵巣開孔術と比較して、レトロゾールの方が出生率が高いという非常に確実性の低いエビデンスがあるようだが、この結論に関連する試験は1件のみであった。妊娠率の結果は不明であった。レトロゾールが腹腔鏡下卵巣開孔術と比較して流産率や多胎率を低下させるかどうかは不明である。卵巣過剰刺激症候群について報告した試験はなかった。エビデンスは2021年11月までのものである。
エビデンスの確実性: エビデンスの全体的な確実性は、非常に低いものから高いものまであった。参加した女性の数が少ない小規模な試験や試験方法が不明確な場合は、エビデンスの確実性を下げた。
《実施組織》杉山伸子 井上円加 翻訳、[2023.1.9] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD010287.pub4》