生殖補助医療における新鮮胚移植と凍結胚移植の比較

レビューの論点

体外受精や顕微授精において、全胚凍結という方針は従来の一般体外受精や顕微授精と比較して安全で効果的か?


背景

従来、体外受精(IVF)や顕微授精(ICSI)では、卵巣過剰刺激により卵子を採取した後、得られた新鮮な胚をそのまま移植していた。その場合、十分な数の胚が得られれば、新鮮な胚を移植した後に、次以降の周期で1つまたは複数の凍結胚を移植することが可能である。また、良好な胚を「すべて凍結」し、次回以降の周期で凍結保存した胚を移植する「全胚凍結」という方法もある。「全胚凍結」の方針を取った場合、すべての胚を凍結し、後に卵巣刺激を行っていない周期で胚を移植する。そのため、この方法は卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクを軽減することができる。というのも、OHSSは排卵誘発剤に対する過剰反応であるが、妊娠するとより重症化するからである。さらに、排卵誘発剤に対する女性のホルモン反応が子宮内膜に影響を与え、胚が着床しにくくなる可能性があるという研究結果もある。以上のことから、胚を凍結しておき、排卵誘発剤の影響を受けていない子宮内膜の状態になってから移植することは有意義かもしれない。

この10年で、「全胚凍結」を標準的な治療戦略として適用するクリニックが増えてきた。実際には、「全胚凍結」の方針と従来の方針では技術的に異なる場合がある。

生殖補助医療を受けている女性を対象に、これらの治療戦略の有効性と安全性を比較した。


研究の特性

2020年9月23日までに科学文献に掲載されたすべての試験を検討した。

15件のランダム化比較試験(参加者が当該治療かプラセボ治療のいずれかに均等に割り振られる試験)をレビューに含めた。8件の試験の結果を組み合わせて分析することができ、対象となる女性の合計は4712人となった。

主な結果

「全胚凍結」戦略と従来の体外受精・顕微授精戦略では、累積出生率や継続的な妊娠率にほとんど差はないと思われる。今回の結果から、従来の体外受精・顕微授精による累積生児率が58%であれば、「全胚凍結」戦略による出生率は57~63%になると考えられる。「全胚凍結」戦略は、新鮮胚を移植しないので、OHSSの発症リスクが高い女性における発症リスクを下げることができるかもしれない。今回の結果から、従来の体外受精・顕微授精I戦略でOHSSの発症率が3%であれば、「全胚凍結」戦略ではOHSSの発症率が1%になることが示唆された。「全胚凍結」戦略が、従来の体外受精・顕微授精と比較して、流産のリスク、多胎妊娠率、妊娠までの期間に影響を与えるかどうかは不明である。

また、母子のリスクについても比較した。「全胚凍結」戦略は、妊娠高血圧症候群のリスクを高め、在胎不当過大児(LGA、妊娠週数に比して大きい胎児)となるリスクを高め、生まれてくる子どもの出生体重が大きくなる可能性がある。ただ、この分析は非常に少ない事象発生数に基づいているため、結論を導き出すには注意が必要である。


エビデンスの質

エビデンスの質は、累積出生率については中程度、安全性については低度であった。質が低いと判断した理由は、イベント発生数が比較的少ないために正確さが著しく欠けること、説明できない重大な異質性(試験によって結果が大きくばらついている)、対象となった試験内にバイアスのリスクが存在することであった。

訳注: 

《実施組織》杉山伸子、小林絵里子 翻訳[2021.06.03]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD011184.pub3》

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