レビューの論点
性交や精子を子宮に入れる方法(子宮内人工授精)で妊娠を希望している女性に対し、子宮内膜に意図的に小さな傷をつけたときの効果や痛みの程度を評価する。
背景
体外受精(IVF)を行う女性に対して、意図的に子宮内膜に軽微な傷をつけると、妊娠の可能性が高まると言われている。この損傷は、pipelleのような柔軟性のあるプラスチック製の小さな器具を使った子宮内膜の小さな生検によって作ることができ、一般的で安全な婦人科的処置である。しかし、日常の臨床現場では、この処置はある程度の不快感や痛みを伴うことが知られており、追加の内診が必要になる。体外受精を行っていない女性、例えば、性交や人工授精で妊娠を試みている女性やカップルに対する、この手法の有効性はまだわかっていない。
研究の特徴
計3,703人の女性を含む22件のランダム化比較試験が、このレビューの対象基準を満たした。ほとんどの女性は、「原因不明不妊」と呼ばれるタイプの不妊症で、通常の検査をすべて行ってもこれまでに妊娠しなかった理由が明らかに説明できなかった。レビューの主な評価項目は、生児出産と妊娠継続(12週を超えた妊娠)と、処置中に経験した痛みである。エビデンスは2020年5月21日までのものある。
主な結果
意図的に子宮内膜を傷つけた場合と、傷つけずにプラセボ手技を用いた場合とを比較した試験で、デザイン性が高く、解析対象となったのは1件のみであった。この試験では、生児出産の確率に差があるかどうかを示す十分なエビデンスは得られず、エビデンスの質は低かった。エビデンスによると、何もしないかプラセボ手技を行った場合に出産する確率を34%と仮定した場合、子宮内膜を損傷した場合の確率は27~55%となる。
6件の研究では、女性が手技中に痛みを感じたかどうかについて報告されており、ほとんどの場合、軽度から中程度の痛みを報告していた。
4件の試験では、人工授精の前の月経周期で行われた子宮内膜の損傷と、人工授精を実施する月経周期で行われた子宮内膜の損傷を比較していた。生児出産や妊娠継続、または処置中の痛みに関しては、報告されていない。
ある試験では、月経周期前半の早い時期(2~4日目)に行った子宮内膜の損傷と、月経周期前半の遅い時期(7~9日目)に行った子宮内膜の損傷を比較しており、いずれも人工授精と同じ周期で行われた。生児出産や継続的な妊娠についての報告はなかった。この試験では、痛みを0~10のビジュアルスケール(0が無痛、10が耐えられない痛みとする)を用いて評価した。月経周期前半の早い時期に子宮内膜を損傷した場合、月経周期前半の遅い時期に損傷した場合に比べて、痛みのスコアが平均で0.17ポイント低かったことが示された。
エビデンスの質
子宮内膜損傷の処置によって、赤ちゃんを授かる確率が上がるかどうかは、まだ不確かである。さらに、子宮内膜の損傷のタイミングが出産の確率に影響するかどうかについても、結論を出すことはできなかった。エビデンスの質は低いか、またはきわめて低かった。その理由は、このレビューに含まれている研究はあまりよくデザインされておらず、意味のある結果を出すのに十分な数の女性を募集していなかったことである。したがって、得られた結果は慎重に扱われる必要があり、結果を確かなものにするためにはさらなる研究が必要である。人工授精を受ける女性や性交によって妊娠を試みる女性に対して、子宮内膜の損傷を通常の治療として行うことを支持するには、現在のエビデンスでは不十分である。
《実施組織》杉山伸子、内藤未帆 翻訳[2023.02.09]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD011424.pub4》