成人のうつ病に対するケタミンなどのグルタミン酸受容体モジュレーターの効果

なぜこのレビューが重要なのか?

うつ病は、最も一般的な精神疾患の一つであり、世界で3億5千万人が罹患していると推定されている。大うつ病の患者さんには、最初の治療として抗うつ薬が投与される傾向にある。しかし、これらの薬剤は、1年後には4人に1人程度の効果しかない。うつ病治療のための効果的な代替薬が必要であり、特に迅速な治療が求められている。新しい薬のグループは「グルタミン酸受容体モジュレーター」と呼ばれるもので、グルタミン酸系に作用する。このグループには、ケタミンという薬が含まれている。このレビューでは、ケタミンを含むグルタミン酸受容体モジュレーターの、うつ病治療薬としてのエビデンスを検討した。

このレビューに関心があるだろう人は?

- うつ病の人やその友人、家族。

- 一般開業医、精神科医、心理士、薬剤師。

- 成人を対象とするメンタルヘルス業務に携わる医療関係者。

このレビューでわかることは何か?

1.ケタミンをはじめとするグルタミン酸受容体モジュレーターによる治療は、プラセボ(ダミー薬)や他の薬剤による治療よりも効果的であるか?

2.ケタミンやその他のグルタミン酸受容体モジュレーターによる治療は、プラセボや他の薬剤よりも受け入れられやすいか?

どのような研究がレビューに含まれているのか?

医療データベースを検索し、2020年7月30日までに完了したすべての関連研究(具体的にはランダム化比較試験)を探した。レビューの対象となるのは、成人(18歳以上)のうつ病を対象に、ケタミンやその他のグルタミン酸受容体モジュレーターと、プラセボ、他の医薬品、電気けいれん療法(ECT)を比較した研究である。また、バイアスを減らすために、一重盲検法(参加者はどちらの治療を受けているか知らない)または二重盲検法(参加者も研究者もどちらの治療を受けているか知らない)で行った研究に限定した。レビューには64件の研究が含まれ、合計5299人が参加した。この研究では、16種類のグルタミン酸受容体モジュレーターの薬剤を調査した。参加者の大半は、試験開始時に治療抵抗性うつ病(2種類以上の薬に反応しないうつ病)であった。ほとんどの研究は、グルタミン酸受容体モジュレーターと他の1つの介入を比較した2群間比較試験であった。

このレビューのエビデンスからわかることは?

今回のレビューで対象となった16種類の薬剤のうち、ケタミンとエスケタミンのみがプラセボよりもうつ病の症状を軽減する効果があった。ケタミンの効果は、治療後1週間を越えることはなく、2週間後には明らかに消失した。しかし、ケタミンはプラセボよりも副作用が多かった。エスケタミンの効果は24時間後に見られ、繰り返し投与することで4週間ほど持続する。エスケタミンはプラセボよりも多くの副作用を引き起こした。エビデンスの確実性にはかなりのばらつきがある。

このレビューに含まれる他のグルタミン酸受容体モジュレーターと、プラセボや他の薬剤との間に差があるというエビデンスはなかった。

今後の展望

ケタミンとエスケタミンは、うつ病の症状を軽減するようである。しかし、これらの試験はすべて短期のものであり、長期的な影響についてはわからない。注意すべき点は、参加者や研究者が何の薬が投与されているかを知らないようにする試みが成功しなかった試験もあり、このことが実薬の有益な効果を誇張してしまう可能性があることである。

今後の研究では、実際の使用状況を再現し、より長期的な影響を評価するために、この薬を繰り返し投与した場合にどうなるかを調べる必要がある。グルタミン酸受容体モジュレーターをプラセボではない他の有効な薬剤と比較して、代替療法よりも優れているかどうかを調べる非劣性試験をもっと実施すべきである。

今回のレビューでは、ほとんどのケタミン試験で、ケタミンは静脈に注射して投与された。このため、臨床現場でケタミンを広範に適用するには制限があり、他の投与方法によるケタミンの試験が必要である。エスケタミンの試験では、通常、鼻腔スプレーが使用されたが、これは使いやすく、さらにモニタリングや試験で安全性が確認されれば、自宅でも服用できる可能性がある。より信頼性の高い確固とした結論を導き出すためには、投与を評価するさらなる研究が必要である。

訳注: 

《実施組織》 阪野正大、杉山伸子 翻訳[2021.09.15]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD011612.pub3》

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