レビューの論点
擬似的再現療法(SPT)は問題行動を治療し、認知症の患者の生活の質を改善することができるのか?
背景
認知症は、記憶やその他の脳機能が低下していく高齢者の最も一般的な病気である。患者は次第に他人に依存してケアを受けるようになる。認知症の特に後期の症状では、多くの患者は時おり苦痛を感じたり、介護者が対処するのが難しい行動をする。薬物を使わずにこれらを治療する方法を見つけることに大きな注目が集まっている。擬似的再現療法(SPT)は、主に老人ホームで使用されている治療の一種である。この治療法は、認知症の人が苦痛や興奮を感じた時に、あらかじめ家族が録画した個人用のビデオやオーディオテープを再生するものである。
試験の特徴
SPTを通常のケアや他の治療と比較した試験を探した。理想的には、認知症の人が1つまたは他の治療に無作為に割り当てられるべきだったが、治療の割り当てが厳密に無作為でない試験も含めた。
選択基準を満たす3件の試験を見つけた。144名の被験者全員が老人ホームに住んでいた。大半は平均年齢が80歳を超え、重度の認知症の女性だった。SPTの実施方法は、各試験で異なった。すべての試験は複数の比較処理を行い、それらは試験間で異なるものであった。試験はすべて興奮による行動への影響を測定することを試みたが、異なるアプローチを使用した。
主な結果
試験は非常に異なっていたため、結果を統合することができなかった。各試験は、問題行動に対するSPTの効果を評価するさまざまな方法を報告した。そして試験の結果は評価方法によって異なった。
生活の質、日常活動への影響、介護者への影響、または被験者がどの程度試験から脱落するのかを評価した研究はなかった。
エビデンスの質
試験は小規模であり、すべて試験において方法に問題があり、結果に偏りがあった可能性がある。したがって、エビデンスの全体的な質は非常に低いと考えられる。つまり、結果にはまったくエビデンスがない。
結論
質の高い研究が十分に行われていないため、SPTが苦痛を感じたり、興奮している認知症患者を助けることができるかどうかを判断することはできない。
《実施組織》岩見謙太朗、冨成麻帆 翻訳[2020.04.28] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD11882.pub3》