背景
急性呼吸窮迫症候群(急性呼吸促拍症候群ともいう)(ARDS)は、肺が炎症を起こして(刺激を受けて)障害を受ける、命にかかわる病態である。この状態では、生命維持に必要な臓器のために肺から血液に十分な酸素を送り込むことができない。このような状態は通常、すでに重症の患者にみられる。現在、この病態に対して効果のある特異的な治療法はない。代わりに、食事の摂取内容の変更が行われている。ARDSの成人患者に与えられる栄養食に、抗炎症作用がある食べ物の成分が含まれるようにすることにより、肺の炎症を抑えて、この病状の成人患者のアウトカムを改善することができる。ω3脂肪酸(ドコサヘキサエン酸[DHA]とエイコサペンタエン酸[EPA]としても知られる)は魚油の成分であり、抗炎症作用を持つことが示唆されている。このレビューでは、ARDSの成人患者を対象とした研究に報告されているアウトカムと、栄養に変更を加えることによる効果を検討した。
研究の特性
本エビデンスは2018年4月現在のものである。このレビューでは、成人1015人が参加した10件の研究を対象とした。いずれの研究も集中治療室(ICU)で実施され、標準栄養(ARDS患者に通常与えられる栄養食)と、ω3脂肪酸またはプラセボ(活性作用のない物質)を栄養補助として加えた栄養食とを比較して、それにさらに抗酸化剤を加えた場合と加えない場合を比較した。抗酸化剤とは、酸化(炎症や細胞損傷を引き起こすことがある反応)を抑制または遅らせる分子のことである。
主な結果
ARDS患者の栄養摂取の一部にω3脂肪酸と抗酸化剤を使用することによって、長期生存が改善するかどうかは定かではない。ω3脂肪酸と抗酸化剤を使用すると、ICU入室期間や人工呼吸器の使用日数が減少するかどうか、または酸素化を改善するかどうかも明らかではない。さらに、この種の栄養食によって害が増えるかどうかも不明である。
エビデンスの質
レビューの対象とした研究のあいだで、研究方法、患者に与えられた栄養補助食品の種類、アウトカム測定の報告が標準化されていなかったため、本レビューの結果には限界がある。エビデンスの質は低~非常に低と評価した。
《実施組織》 ギボンズ京子 翻訳 南郷栄秀 監訳[2020.03.04]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD012041.pub2》