レビューの目的
このレビューの目的は、皮下縫合(皮膚の下に埋没する縫合)が手術後の傷の閉鎖に有効かどうかを調べることであった。産科手術(帝王切開など、出産に関連する手術)を除くすべての種類の手術を対象とした。この論点に関連する全研究を収集、分析し、66件のランダム化比較試験を同定した。ランダム化比較試験とは、異なる治療に、患者がランダム(無作為)に割付 される医学研究のことである。 このタイプの試験は、最も信頼できる健康上のエビデンスを提供する。
要点
手術後の傷の感染に関しては、皮下縫合と、皮膚の上を縫う標準的な縫合、サージカルテープ、ステープル、接着剤など、手術の傷を閉じる他の方法との間に明確な違いはない。皮下縫合を行うことで、ステープルに比べて創傷の合併症が減少し、皮膚表面を縫うことやステープルを用いることに比べて患者の満足度が向上すると思われる。しかし、接着剤でも患者の満足度を向上させる可能性があり、皮膚の上の縫合やステープルは、外科医にとっては短時間の処置ですむ可能性がある。
レビューでは何が検討されたか?
外科医は、手術の最後に手術の創を閉じるために様々な選択肢を持っている。皮膚の閉鎖は、皮膚の下に入る皮下埋伏縫合、皮膚の上を縫合する方法、ステープル(創傷用ステープラーやクリップ)、組織接着剤(グルー)、テープなどの器具を使って行われる。縫合糸には、吸収性のもの(治癒の過程で体内に溶け込み、抜糸の必要がないもの)と、非吸収性のもの(傷が治ったら抜糸が必要なもの)がある。
手術部位感染症は、手術後の一般的な問題であり、患者に様々な問題を引き起こす可能性がある。外科的な傷は、適切に治癒しないと瘢痕(訳注:ケロイドや、傷のひきつれなどの外見的な問題)の原因にもなる。感染症、傷跡、患者の満足度、コスト、痛み、入院期間、生活の質などの観点から、皮下縫合が他の手術の傷を閉じる方法と比べてどうなのかを明らかにした。
レビューの主な結果
2019年3月、医療データベースを検索し、皮下縫合法と、標準的な縫合、皮膚ステープル、組織接着剤、テープ、手術用ジッパーなどの他の皮膚閉鎖方法を比較した66件の研究を確認した。これらの研究のうち64件(7487人が参加)を解析に使用した。それぞれの研究には、平均して115人が参加した。参加者は全員、病院で腹腔内手術を受けている成人であった。ほとんどの研究では資金提供元について報告されていなかった。
大半の研究では、皮下縫合と、標準的な縫合、皮膚ステープル、組織接着剤を比較している。
主な結果は、傷口が感染するかどうかであった。傷口が化膿した人数については、皮下縫合とその他の閉鎖方法に明確な違いはなかった。
皮膚の上を縫合する場合に比べて、皮下縫合の方が、患者さんの満足度が高いのではないかと考えられた。皮下縫合は、皮膚ステープルと比較して、おそらく創傷の合併症を防ぎ、患者の満足度を向上させるというエビデンスがある。皮下縫合は、ステープルや組織接着剤に比べて創傷部位の損傷(皮膚の剥離など)を防ぐことができるが、組織接着剤は患者の満足度を向上させる可能性がある。しかし、外科医にとっては、皮下縫合よりも代替法の方が迅速に対応できる場合もある。皮下縫合法と代替の閉鎖方法の間には、再閉鎖(訳注:うまく閉鎖されず開いてしまった傷口を再度閉じること)、痛み、入院期間、QOLについて明確な違いはなかった。
今回分析した研究は、参加者の数が少なく、多くの場合、適切な方法で実施されたことを確認できるような方法で報告されていなかった。したがって、皮下縫合の有効性については、決定的なことは言えない。ステープルとの比較を除くすべての比較において、より強い結論を出すためには、より質の高い研究が必要である。
このレビューはどの時点のものか?
2019年3月までに発表された研究を検索した。
《実施組織》小林絵里子、屋島佳典 翻訳 [2022.02.07]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD012124.pub2》