質的エビデンスの統合の目的:出産付き添いの受け止め方と体験
このコクラン質的エビデンス統合は、支援者(「出産付き添い者」)に付き添われる産婦について、産婦本人や家族や医療者がどのような体験をしているかを探るためにおこなわれた。出産付き添い者には、産婦のパートナー、家族メンバー、訓練を受けた支援者(ドゥーラ)、看護師や助産師などが挙げられる。この問いに答えるために、我々は関連するすべての質的研究を集めて分析した。
この質的エビデンス統合は、2017年に発表されたボーレンらによる別のコクランレビューと関連がある。そのレビューでは、出産中の継続的支援の効果を評価している。継続的支援があると産婦とその赤ちゃんの健康状態が良くなるが、実施成功にどんな要因が影響するかはよくわかっていない。
要点
出産付き添い者は産婦に情報を提供し、実際的な支援や情緒的支援をおこなう。産婦を支持するために肩を持つこともある。付き添い者がいると産婦がポジティブな出産経験を得ることにつながる。付き添い者は思いやりがあり、信頼できる人である必要がある。ところが、特に低資源の場では、付き添い者を望むすべての女性が付き添いを得られるわけではないという現状がある。
この統合からわかったこと
我々は出産中に産婦に提供される支援を「出産付き添い」と呼ぶことにした。高所得国では、産婦は家族やドゥーラに付き添われることが多い。しかし低中所得国では、産婦は付き添いもなく、陣痛や出産を独りぼっちで乗り切らなければいけないことがある。
2017年に発表されたボーレンらのレビューでは、出産中の支援があると産婦の出産体験や健康状態に良い効果がみられることが示されている。我々は、出産付き添いについて、産婦やパートナーや医療者がどのように感じているか、産婦が出産付き添いを得られるか否かにはどんな要因が影響するかを理解しようと考えた。
主な結果
51件の研究が得られたが、大半が高所得国で行われた研究で、主に女性の視点を調べたものだった。研究から得られた所見の一つひとつについて、GRADE-CERQualという方法を使って確信性のレベルを判断した。ほとんどの所見に、高度あるいは中程度の確信性があった。確信性が低い場合や、あるいはとても低い場合には、そのことを示した。
出産付き添い者は下記の4つの異なるやり方で産婦を支援していた。付き添い者は、産婦に出産についての情報を与えたり、医療者と産婦の間のコミュニケーションギャップを埋めたり、薬を使わない産痛緩和法を促したりすることによって、情報的な支援をしていた。また、付き添い者は、女性を支持するために主張する ことによって女性の擁護(アドヴォケイト、守ること)をしていた。付き添い者は、産婦に動き回るよう促したり、マッサージをしたり、手を握ったりなど、実際的な支援も提供していた。最後に、付き添い者は、産婦がコントロールと自信を感じられるように褒めたり、「大丈夫ですよ」と請け合ったり、その場に継続的に居ることによって、情緒的な支援を提供していた。
出産中に付き添ってほしいと思う女性にとって、付き添い者は共感してくれて信頼できる人である必要がある。付き添いがあると、産婦がポジティブな出産経験を得ることにつながった。付き添い者がいないと、そのことはネガティブな出産体験と受け止められる可能性がある。男性のパートナーによる付き添いについては、女性は様々な見方があった(低度の確信性)。全体的に、出産に付き添った男性は、付き添ったことにより、男性本人にとっても(低度の確信性)、パートナーや赤ちゃんとの関係にとっても(低度の確信性)、良い影響があったと感じていた。一方、陣痛の痛みを目撃することで不安を感じた男性もいた(低度の確信性)。自分がケアのチームや意思決定にうまく入れてもらえなかった、と感じた男性パートナーもいた。
ドゥーラは、親密な関係を作ったり、相手の期待にうまく対応したりするために、出産前から女性に会うことが多い。女性たちはドゥーラと親密なきずなをつくることができていた(低度の確信性)。高所得国では、外国から来た女性には、コミュニティーベース・ドゥーラによる文化的に適切な支援が高く評価される可能性がある(低度の確信性)。
下記の要因は実施状況に影響するだろう。例えば、医療者や女性が出産付き添いに様々な良い効果があることを知らない場合、十分なスペースがない場合、プライバシーが守られない場合、付き添いにより感染のリスクが高まると恐れられている場合などである(低度の確信性)。付き添いを許可するように方針を変更することや、指針と実践のギャップを埋めることが大切だと考えられる(低度の確信性)医療者によっては、付き添い者を活用することに抵抗感があったり、付き添い者の活用方法について十分なトレーニングを受けていなかったりすることがあり、これにより確執が起こる可能性がある。付き添い者が一般人である(専門家でない)場合には、妊娠期のケアにうまく入れてもらえないことが多く、それにより不満が生じることがある(低度の確信性)。
我々は、この統合から得られた所見を、付き添い効果についてのボーレンらによるレビューで使われた出産付き添いプログラム(方法)と比較した。それらのプログラムのほとんどで、この統合で見出された出産付き添いの重要な機能を満たしていないようだった。
本レビューの更新状況
2018年9月までに発表された試験を検索した。
《実施組織》福澤利江子翻訳 飯村ブレット監訳[2019.4.8] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD012449》