レビューの論点
過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)の管理において、バイオフィードバック(行動療法)の効果に関する科学的根拠(エビデンス)のレビューを実施した。
背景
IBSは、腹痛、排便の頻度や硬さの変化を来たすよく見られる障害である。バイオフィードバックは、リラックスをした心理状態が、通常は意識的にコントロールされていないプロセス(心拍数、肛門括約筋の収縮など)を追跡する技術を使って、リラックスした状態がどのようにこれらの測定に影響を与えるかを見るために参加者が計測器を使う。研究者は、バイオフィードバック計測器のツールを使って、よりリラックスした状態を達成できることで、IBSの症状改善に効果があるとしている。
研究の特性
バイオフィードバックと無治療、偽治療、または他のIBSの治療法とを比較した研究を検索した。合計参加者300例を含む8件の試験を対象とし、IBSに対するバイオフィードバックの効果を評価した。これらの研究は成人のみを対象とし、外来で実施された。研究期間は、8週間~6カ月であった。バイオフィードバック計測器の種類は様々で、心拍変動測定、体表温度または皮膚電気抵抗の測定、肛門括約筋の弛緩測定などがあった。
研究の資金提供元
対象としたどの試験も資金提供元を開示していなかった。
主な結果
主要臨床評価項目は、全体的な臨床的改善および生活の質であった。
全体的な改善に関しては、バイオフィードバックと無治療を比較した3件の試験が、リラクゼーショントレーニングプログラムの一環として行ったバイオフィードバックは無治療より症状コントロールが良好であった(エビデンスの確実性は非常に低い)。そのうち2件の試験は、バイオフィードバックと注意制御とを比較し、軽微な症状改善が見られたが、エビデンスの確実性が非常に低いため、偶然の影響を排除できない。1件の試験は、催眠療法と比較して、心拍数バイオフィードバックの症状改善効果が大きいことが示された(エビデンスの確実性は低い)。バイオフィードバックとカウンセリングとを比較した2件の試験では、明らかな効果は軽微で、偶然の影響を排除できない(エビデンスの確実性は非常に低い)。直腸S状結腸部のバイオフィードバックとリラクゼーション法(対照)とを比較すると、リラクセーション法(対照)が有効であった。標準治療にバイオフィードバックを追加した場合、標準治療単独、標準治療+偽バイオフィードバックより優れていた(両知見ともエビデンスの確実性は低い)。
生活の質
1件の試験は、特に全体の生活の質を検証した。生活の質は、バイオフィードバック群と認知療法群の両群が改善したが、全体的な群間差は認められなかった。
有害事象
1件の試験のみが、明確に有害事象の報告をした。その試験では、バイオフィードバック群または認知療法群のいずれにも有害事象の報告はなかった。
エビデンスの確実性
これらの知見はそれぞれ、GRADE基準を用いてエビデンスの確実性を評価した。判定は低い~非常に低い、であった。
本エビデンスは2019年7月現在のものである。
著者の結論
IBSのためのバイオフィードバックに関する既存のデータは限定的で、IBSの症状管理におけるバイオフィードバックの価値は明らかではないと結論付けた。現在参考にできる現時点で入手可能な研究は全て、研究デザインに限界があり、臨床現場に適用することは難しい。しかし、バイオフィードバックは、症状管理が困難な症例に対して、ユニークな治療法である可能性があるため、この分野でのさら更なる研究を推奨する。
《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2020.12.28] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《 CD012530.pub2》