背景
ホジキンリンパ腫はリンパ系の悪性腫瘍である。免疫システムの一環として、リンパ系はリンパ管のネットワークを形成し、リンパ液を全身にめぐらせている。リンパ液は、感染防御に働く白血球を含んだ液体である。ホジキンリンパ腫は、小児にも成人にも発症するが、20代が好発年齢である。最も治癒が見込めるがんのひとつで、90%近くの人が治る。しかしながら、およそ10%の人はホジキンリンパ腫を再発する(がんが再び増大する)。治療の選択肢として、化学療法、放射線療法、あるいはその両方、そして新たに開発された薬剤で免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれる、がん細胞を直接標的とするものがある。ニボルマブは免疫チェックポイント阻害薬のひとつで、現在、様々ながんの治療薬として、また幹細胞移植とブレンツキシマブ ベドチンという抗がん剤を用いた治療後に再発したホジキンリンパ腫の治療薬として、アメリカ食品医薬品局(FDA)に認可されている。幹細胞移植では、患者は幹細胞とよばれる血液細胞をつくる細胞を受け取り、この細胞は、疾患とともに、あるいは既に受けた治療によって破壊された自分自身の細胞と置き換わる。
レビューの論点
この系統的レビューは、成人のホジキンリンパ腫に対するニボルマブの効果と有害性について評価した。
研究の特性
我々は重要な医療系のデータベースを検索し、成人のホジキンリンパ腫に対するニボルマブの効果とひ有害性について検討した臨床試験を同定した。著者2人が独立して、検索結果のスクリーニング、要約、解析を行った。加えて、我々はデータの抽出に、RobotReviewerというコンピュータソフトウェアを試行した。我々の調査は、283人の参加者を含む3つの研究と14の進行中の試験を同定した。
このエビデンスは2018年5月現在のものである。
主要な結果
260人の参加者を含む2つの研究は生存率について評価していた。1つの試験(17人の参加者)では、6か月後にすべての参加者が生存していた。ある試験では、一部の参加者に質問紙法を用いて聴取した生活の質(QOL)を報告していたが、すべてのフォローアップデータが得られたわけではなかった。質問票に回答した参加者は恩恵があったようだが、この結果をすべての参加者に適用してよいかは不明であった。研究では、腫瘍制御や腫瘍の反応についても報告しているが、治療そのものやニボルマブを投与される前に患者が既に何種類の治療を受けていたかによって、結果が異なっていた。
ニボルマブは疾患が進行するまで(悪化するまで)、あるいは容認できない副作用が出現するまで投与されるため、患者は長期間にわたりこの薬剤を投与されることになる。したがって、副作用の報告は患者が薬剤を投与された期間に関係し、長期間使用すればその分副作用も増える可能性がある。最も多く報告された副作用は、倦怠感(疲労感)、下痢(軟便)、インフュージョンリアクション(薬剤を血管内に投与している間や投与直後におこる反応)と発疹だった。薬剤に関連した重篤な副作用を報告した研究は1つしかなかった。重篤な副作用(インフュージョンリアクションと肺疾患)が生じることはまれであった。薬剤関連死亡は報告されていなかった。
エビデンスの信頼性
研究デザインと参加者のばらつき(今までに受けた治療の種類数、治療の選択肢)のため、エビデンスの信頼性は低度か非常に低度であった。
結論
この系統的レビューでは、成人のホジキンリンパ腫に対するニボルマブの効果と有害性を評価した。
生存率、QOL、腫瘍反応、副作用に関するデータが、小規模の試験からのみ得ることができた。3つの試験が、今までの治療の選択肢が異なり、その多くが既に幹細胞移植を受けている人々だけを対象に行われていた。1つの試験では、すべての参加者が6か月後も生存していた。QOLのデータは、すべての参加者については報告されていなかった。さらに、評価された参加者すべての、長期治療後のデータは得られていなかった。そのため、意味のある結論は得られなかった。重篤な副作用がおこることはまれであった。今のところ、再発や治療抵抗性のホジキンリンパ腫患者に対するニボルマブの効果については、既に複数の治療を受けている人を除いて、明確な結論を出すにはデータが非常に乏しい。現在、14の試験がニボルマブを評価するために進行中であり、そのうち2つはデザインも良好である。近い将来、このレビューを更新することが可能であろう。そして、そのアップデート版では本報告とは異なる結果が示されるかもしれない。
《実施組織》杉山伸子 翻訳、康秀男 監訳[2018.12.17] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD012556》