レビューの論点
子宮内膜増殖症の女性を対象に、レボノルゲストレルを子宮内に放出するシステム(LNG-IUS)の有効性と安全性について、他の治療法と比較したエビデンスをレビューした。
背景
子宮内膜増殖症とは、卵胞ホルモン(エストロゲン)が過剰に分泌され、黄体ホルモン(プロゲステロン)とのバランスが取れなくなることで、子宮内膜が過剰に増殖して厚くなる状態である。子宮内膜増殖症の女性は、腟からの不正出血を訴えて医師のもとを訪れることが多い。子宮内膜増殖症は子宮内膜がんの発症リスクを高めるもので、異型性がないもの(異型性やがんに進行するリスクが低い)と異型性があるもの(細胞の構造に異常があり、がんになるリスクが高い)がある。子宮内膜がんは、世界の女性のがんの中で6番目に多いがんで、閉経後の女性、特に60~70歳代に最も多く診断される。子宮内膜増殖症の治療目標は、子宮内膜がんの発生を予防することであり、異型度、閉経しているかどうか、妊娠を希望しているかどうかなどをもとに治療法が選択される。治療には内科的治療(ホルモン療法)と外科的治療(子宮摘出術)がある。
黄体ホルモンの薬(プロゲストーゲン剤)を毎日服用する治療は、異型を伴わない子宮内膜増殖症に対する通常の治療法であり、妊孕性の温存を希望する女性や手術に耐えられない女性の異型を伴う子宮内膜増殖症にも行う場合がある。黄体ホルモン(プロゲスト―ゲン)で子宮内膜増殖症が必ず治るというわけではなく、また副作用もありえる。LNG-IUSは、T字型の小さな器具を子宮内に挿入し、黄体ホルモンをゆっくりと放出して子宮内膜に直接作用させるものである。外来の処置で挿入でき、最長で5年間留置することが可能である。LNG-IUSは、子宮内膜増殖症を治療するための代替手段であり、より効果的で、副作用が少なく、女性に好まれる可能性がある。
研究の特徴
子宮内膜増殖症の女性を対象に、LNG-IUS群1657人と子宮内以外の黄体ホルモン投与群1327人または無治療群190人とを比較した、13件のランダム化比較試験(RCT)をレビューの対象とした。LNG-IUSを手術やプラセボと比較した試験はなかった。女性の年齢は22~70歳であった。すべての試験は、異型性を伴わない子宮内膜増殖症の女性を評価しており、異型性を伴う子宮内膜増殖症の女性も対象としていた試験は1件であった。2件の研究は、分析するのに十分なデータがなかった。エビデンスは2020年5月までのものである。
主な結果
短期間(6ヶ月まで)の追跡調査において、子宮内膜増殖症の改善には、子宮内以外の黄体ホルモン治療よりも、LNG-IUSによる3~6ヶ月間の治療の方が効果的であると考えられる中程度の質のエビデンスがあった。これは、子宮内以外の黄体ホルモン剤による治療後の子宮内膜増殖症の改善率を72%と仮定した場合、LNG-IUSによる治療後の子宮内膜増殖症の改善率は85~92%になることを意味する。長期的な追跡調査(12ヶ月~2年)において、LNG-IUSの方が子宮内膜増殖症の改善により効果的であるという質の低いエビデンスがあった。より長期の治療期間やフォローアップについて調べた試験はなかった。
LNG-IUSに関連する副作用を判断するには十分なエビデンスがなかった。1件の研究のみで、排出(器具が子宮から自然に落ちてしまうこと)について報告されていた。
非常に低度から低度の質のエビデンスによると、LNG-IUSは女性に受け入れられやすい可能性があり、子宮摘出手術になる例が少なく、吐き気を経験する女性が少なく、副作用による治療中断が少なく、治療スコアに対する患者の満足度が高かった。非常に質の低いエビデンスによると、LNG-IUSはより多くの出血や点状出血と関連している可能性がある一方、体重増加や気分の変化などのホルモンに関連する副作用への影響については不明であった。分析に適したデータを報告している試験がなかったため、安全性やコスト、資源利用に関する結論を出すには十分なエビデンスがなかった。
1件の研究において、LNG-IUSは無治療と比較して異型性を伴わない子宮内膜増殖症を回復させたことが示されていた。つまり、無治療での子宮内膜増殖症の改善率が27%と仮定した場合、LNG-IUSによる治療後の子宮内膜増殖症の改善率は89~99%になることを示唆している。
エビデンスの質
主要評価項目である「子宮内膜増殖症の改善」については、いずれのレビュー比較においてもエビデンスの質は低いまたは中程度であった。その他の結果については、エビデンスの質は低いか非常に低いものであった。主な限界は、バイアスのリスク(盲検化の欠如や研究方法の報告不足に関連したもの)、結果のばらつき、研究数の少なさ、報告されたイベント数の少なさによるものであった。
《実施組織》杉山伸子、瀬戸屋希 翻訳[2021.09.06]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD012658.pub2》