腱板損傷に対するキネシオテーピング

レビューの論点

インピンジメント症候群(関節付近で骨や筋肉が衝突することで組織が損傷して起こる痛み)、腱板炎、石灰沈着性腱板炎(腱板の表層などに石灰が生じる病気)等の肩に痛みを持つ成人を対象に、キネシオテーピング(KT)の有効性と有害性を明らかにする。

背景

KTは腱板損傷の保存的治療法の一つとして提案されている。KTは綿から作られた弾力のある、粘着性のあるラテックスフリーのテーピングであり、薬理作用のある成分は含んでいない。臨床家は痛みを伴う疾患に対するリハビリテーション治療の際にKTを採用しているが、効果に関する確固たるエビデンスはない。

研究の特徴

1054人の参加者を含めた23件の研究を取り込んだ。9件の研究(312人の参加者)ではKTと擬似治療(偽のKT)との有効性の比較を行い、14件の研究(742人の参加者)ではKTと他の保存的治療法(例えば従来のテーピング、理学療法、運動、グルココルチステロイド注射、内服薬など)と有効性の比較を行った。ほとんどの研究の参加者は年齢が18歳から50歳であった。女性の割合は52%を占めている。

主な結果

比較1:KTと擬似治療

全般的な痛み(スコアが低いほど痛みが少ない):

0.7%の悪化(9%の悪化~7.7%の改善)もしくは0~10点満点において0.07点の悪化となった。

・擬似治療を受けた参加者の痛みの評価は2.96点であった。

・KTを受けた参加者の痛みの評価は3.03点であった。

機能(0~100:スコアが低いほど機能が良い):

8%の改善(5%の悪化~21%の改善)もしくは0~100点満点で8.05点の改善であった。

・擬似治療を受けた参加者の機能評価は47.10点であった。

・KTを受けた参加者の機能評価は39.05点であった。

動作時の痛み(0~10段階:低いスコアほど痛みが少ない):

14.8%の改善(7.1%の改善~22.5%の改善)もしくは0~10点で1.48点の改善であった。

・擬似治療を受けた参加者の動作時の痛みの評価は4.39点であった。

・KTを受けた参加者の動作時の痛みの評価は2.91点であった。

痛みのない自動的可動域(AROM)(肩の外転)(0~180度):

5.7%の改善(8.9%の悪化~20.3%の改善)もしくは10.23度の改善であった。

・擬似治療を受けた参加者の痛みのないAROMは174.2度であった。

・KTを受けた参加者の痛みのないAROMは184.43度であった。

全体的な治療の成功評価:

結果を報告した研究がなかった。

生活の質:

1件の研究で下位分類に分けてデータを報告していた。

有害事象:

事象に対する記述が不均一であるため、有害事象に関する信頼性の高い推定は得られなかった(4件の研究)。

比較2:KTと保存的治療の比較

全般的な痛み(スコアが低いほど痛みが少ない):

4.4%の改善(4.6%の悪化~13%の改善)もしくは0~10段階で0.44点の改善であった。

・保存的治療を受けた参加者の痛みの評価は0.9点であった。

・KTを受けた参加者の痛みの評価は0.46点であった。

機能(0~100:スコアが低いほど機能が良い):

13%の改善(2%の改善~24%の改善)もしくは13.13点の改善であった。

・保存的治療を受けた参加者の機能の評価は46.6点であった。

・KTを受けた参加者の機能の評価は33.47点であった。

動作時の痛み(0~10段階:低いスコアほど痛みが少ない):

0.6%の改善(7%の悪化~8%の改善)もしくは0.06点の改善であった。

・保存的治療を受けた参加者の痛みの評価は4点であった。

・KTを受けた参加者の痛みの評価は3.94点であった。

痛みのない自動的可動域(AROM)(肩の外転)(0~180度):

3%の改善(11%の悪化~17%の改善)もしくは0~180度の範囲で3.04度の改善であった。

・保存的治療を受けた参加者の痛みのないAROMは156.6度であった。

・KTを受けた参加者の痛みのないAROMは159.64度であった。

全体的な治療の成功評価:

結果を報告した研究がなかった。

生活の質(12項目短縮版調査、スコアが高いほどより良い生活の質):

18.7%の改善(14.48%の改善~22.92%の改善)もしくは18.7点の改善

・保存的治療を受けた参加者の生活の質の評価は37.94点であった。

・KTを受けた参加者の生活の質の評価は56.64点であった。

有害事象:

事象の記述が不均一であることから、有害事象に関する信頼できる推定は得られなかった(7件の研究)。

エビデンスの質

全体的に非常に質の低いエビデンスに基づくと、腱板損傷に対するKTは偽のテーピングや保存的治療法と比較して痛み、機能、動作時の痛み、能動的な可動域に対する効果は不確実である。低い質のエビデンスによると、KTは保存的治療法と比較して生活の質を向上させる可能性がある。有害事象に関するエビデンスが乏しく、発生率が低いため不確実であり、このレビューではこうした有害事象のリスクに関する信頼できる推定はできなかった。

訳注: 

《実施組織》久保田純平(公立陶生病院)、 堀本佳誉(千葉県立保健医療大学)翻訳[2021.9.1212]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD012720.pub2》

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