化学療法による悪心・嘔吐の負担とその予防に役立つものは何か
化学療法は、成人がん患者の約70~80%に対して悪心(吐き気、嘔気)と嘔吐を誘発する(CINV)。化学療法の種類によって、高度催吐性化学療法(高度の吐き気を催すもの)と中等度催吐性化学療法(中等度の吐き気を催すもの)がある。複数の薬剤の組み合わせにより、高度および中等度催吐性化学療法を受けている成人のCINVに対して高い有用性が示されている。
本レビューの目的
ネットワークメタアナリシスを用いて、高度または中等度の催吐性化学療法を受けている患者のCINV予防のためのさまざまな薬剤の組み合わせの有益性と有害性を比較し、治療の順位を明らかにすることを目的とした。ネットワークメタアナリシスとは、すでに発表された試験で報告された異なる治療法を比較するために使用される手法であり、これには元の各試験にそのような比較が記載されていない場合も含まれる。
レビューの対象とした試験
検索対象として選択した医学データベースと試験登録を2021年2月まで検索した。臨床でよく使用されている高度または中等度催吐性化学療法を受けるあらゆる種類のがんの成人患者を対象に、CINVの予防を目的として複数の薬剤の組み合わせを比較した研究を対象とした。特に、化学療法後に悪心や嘔吐を誘発する2つの特定の生化学的受容体(ニューロキニン受容体とセロトニン受容体)を阻害する薬剤に注目し、各治療法の5日間にわたる予防効果を検討した。この期間は、化学療法開始後、CINVの強度が最大となり、さらに強度のピークが予想される期間である。
主な結果
.高度催吐性化学療法を受けている人について
参加者25,275人の経験を報告し、本解析の対象となる14の治療の組み合わせを比較した研究が73件見つかった。
有益性 調査した治療法は、5日間にわたり平均して60%~81%の患者の嘔吐を防ぐのに役立った。また、そのような患者は、予防的治療を行ったにもかかわらず悪心や嘔吐が起きた場合に使用される救助薬を必要としなかった。本解析結果は、異なる治療法の有効性の差を示唆しているが、全体として、その有効性の差が実臨床でも観察されるという根拠はほぼなかった。
有害性 1%~4%の人が重篤な副作用を経験すると推定された。治療法間の差は小さかった。
中等度催吐性化学療法を受けている人について
参加者12,038人の経験を報告し、本解析の対象となる15の治療の組み合わせを比較した研究が38件見つかった。
有益性 調査した治療法は、5日間にわたり平均して43%~72%の患者のあらゆる嘔吐を防ぐのに役立った。また、そのような患者は救助薬を必要としなかった。本解析結果は、異なる治療法の有効性の差を示唆しているが、全体として、その有効性の差が実臨床でも観察されるという根拠はほぼなかった。
有害性 重篤な副作用を報告した研究はほとんどなかった。報告のあった研究では、平均して15%~18%の患者が重篤な副作用を経験することが示唆された。治療法間の差はわずかであった。しかし、治療法間の潜在的な差を除外するために、今後の研究が必要であると考えられる。
試験結果の信頼性
比較した治療法の間に差があることをどの程度確信できるかを評価した。ある治療法が他の治療法よりCINVの予防に優れている、あるいは劣っているという確信は、低いか非常に低いものであった。精度の値は結果の信頼性に全くあるいはほとんど影響を与えなかったものの、ばらつきの幅が大きく、潜在的な利点と欠点の両方を含んでいたため、統計的な結果の間にみられた差に対する信頼性は主に限定的であった。また、対象とした研究の一部にいくつかの限界が確認され、効果に対する信頼性がさらに低くなった。これは主に、研究担当者や参加者がどの治療が行われたかを知っていたため、計画された介入を守らなかったり、効果の認識や報告が異なっている恐れがあるということである。
結論
本解析結果は、高度または中等度催吐性化学療法を受けている患者のCINVの予防に対して優れた薬剤の組み合わせはないことを示唆している。ただし、セロトニン受容体を標的とする薬物の選択は、ニューロキニン受容体を標的とする薬物と併用するかしないかにかかわらず、効果に影響を与える可能性があることが示唆された。しかし、これらの結果を解釈する際、この種の多重比較分析は、直接比較の代わりにはならないこと、また、この結果は、一部の個人にとって臨床的に意義のある差を否定するわけではないことを理解することが重要である。
このレビューの更新状況
エビデンスは2021年2月2日現在のものである。
《実施組織》一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)『海外がん医療情報リファレンス』(https://www.cancerit.jp/)串間 貴絵 翻訳、加藤 恭郎(天理よろづ相談所病院緩和ケア科)監訳 [2022.01.09] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン・ジャパンまでご連絡ください。 なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD012775.pub2》