論点
HIV感染者にとって、HIV治療薬を毎日服用すること(服薬アドヒアランス)は、HIVを制御し続けるために不可欠なことである。HIV治療薬の服薬アドヒアランスを測定するための最適な方法は、血液中のウイルス量を知ることができる「ウイルス量検査」である。しかし、ウイルス量検査は、例えば貧困地域の場合など、どこでも受けられるわけではない。もし、もっと簡単な方法でアドヒアランスを測定することができれば、服薬について援助を必要としている人を見つけるのに役立つ可能性がある。
レビューの目的について
このレビューの目的は、その人が服薬を毎日行っているかどうか、あるいはその結果としてウイルス量が多い(検出可能である)かどうかについて、簡単なアドヒアランス測定方法によって知ることができるかどうかを調査することである。アドヒアランスがよくないとわかった人に、ウイルス量の監視を追加で行うことが有効かもしれない。そうすれば、HIVによる合併症の発症や、他人へのHIVの感染を防止できる可能性がある。
どのような研究が見つかったか
2003年から2021年の間に行われた、HIVに感染した小児と成人を対象とした51件の研究が見つかった。これらの研究では、患者自身による報告、錠剤数のチェック、薬局の記録、電子的な記録による管理など、さまざまな方法によりアドヒアランスが測定されていた。
調査の対象となった方法はどれも、薬剤を服用していない可能性がある患者やウイルス量が多い患者を見出すのには有用ではなかった。また、研究ごとの結果に多くの差が認められた。これらの差は、研究の対象が小児か成人か、居住地域が裕福な地域であったか否か、あるいはウイルス量の大小の判定にどのようなカットオフ値(足切り値)が用いられたかといった情報では、説明できなかった。これはまた、これらの研究を組み合わせて判断を下すことができないということを意味している。
このレビューは何を意味するのか
これらの結果からは、抗レトロウイルス薬療法(ART)の服薬アドヒアランスを測定する簡単な方法が、ウイルス量が多い可能性のあるHIV感染者の発見に役立つかどうかはわからなかった。それでも、アドヒアランスを測定しようとする試みには、このレビューでは明らかにできなかった価値が存在する可能性がある。
このエビデンスはいつのものか
2021年4月22日時点のものである。
《実施組織》小泉悠 翻訳、杉山伸子 監訳[2022.09.14]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD013080.pub2》