この系統的レビューの目的は、ワクチン接種に関する高齢者とのコミュニケーションについての医療従事者の認識と経験を探ることである。関連する質的研究を検索・分析し、11件の研究を対象とした。
要点
ワクチン接種に関する高齢者とのコミュニケーションについての医療従事者の認識と経験を調査した研究はほとんどなかった。見つかった研究では、ワクチンに関するコミュニケーションの目的や、ワクチンの決定における高齢者の役割の理解について、医療従事者の間で違いがあることが示唆された。今回の知見に基づき、医療従事者と高齢者の間でのワクチン接種コミュニケーション戦略を計画・実施する際に、計画立案者やプログラム管理者を支援する質問集を作成した。
このレビューからわかったこと
高齢者の感染症予防には、季節性インフルエンザ、肺炎球菌感染症、帯状疱疹、COVID-19などに対するワクチンが利用できる。しかし、高齢者が利用できるワクチンを常に接種しているとは限らない。
高齢者がワクチン接種を決断する際には、医療従事者とのコミュニケーションが重要な役割を果たす。予防接種について十分な情報を得た上での決定をサポートするために、医療従事者は高齢者の知識不足、ニーズ、懸念を把握できるようにすべきである。また、その人の病気のリスクや重症度、ワクチンの有効性と安全性、その人がどのようにしてワクチンを接種できるかなどの実用的な情報を共有し、話し合うことができなければならない。そのため、医療従事者には優れたコミュニケーション能力と、最新のエビデンスを積極的に入手することが求められる。ワクチンに関するコミュニケーションに対する彼らの認識や経験を理解することは、医療従事者のトレーニングや支援、優れたコミュニケーション戦略の立案に役立つ。
本レビューの主な結果
このレビューには11件の研究を採用した。すべての研究は高所得国の研究であった。病院、診療所、薬局、介護施設などで働く医師、看護師、薬剤師などを対象とした調査だった。医療従事者は、インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチン、帯状疱疹ワクチンなど、さまざまな種類のワクチンについて語っていた。このレビューは、COVID-19ワクチンが発売される前に実施された。
いくつかの調査結果の確信度を、高い確信度から中程度、低い、または非常に低に引き下げた。その理由の一つは、一部の調査結果が少数のデータにしか基づいていないことである。もう一つの理由は、調査結果が少数の国での研究に基づいているため、他の環境での調査結果との関連性について確信が持てなかったことである。
医療従事者によると、高齢者が予防接種について尋ねる程度は様々で、ワクチンについて全く尋ねない人から、情報を強く求めている人までいた(この知見に対する確信性は高い)。ワクチン接種の話題が議論されたとき、高齢者のワクチンに関する情報が不足していること、誤った情報があること、ワクチンに対する恐怖や懸念があると、医療従事者は述べた。(中等度の確信性)。
医療従事者が高齢者とワクチンについて話し合う方法は、ワクチン接種のコミュニケーションの目的と関連しているようである。医療従事者の間では、この目的に対する認識や、ワクチンの決定における高齢者の役割についての認識が異なっていた。医療従事者の中には、情報を提供することは重要だが、高齢者が自分で決める権利と責任があることを強調する人もいた。また、「コンプライアンス」(健康上のアドバイスに正しく従う度合い)を高め、ワクチン接種率を「向上」させるために、高齢者を説得し、納得させるために情報を利用する人や、場合によっては経済的な利益を得るために利用する人もいた。高齢者が必要としている、あるいは望んでいると思われることに合わせてアプローチした医療従事者もいた(中等度の確信性)。
医療従事者は、高齢者の意思決定は、医療従事者と患者の関係性、医療従事者の地位、医療従事者がどの程度手本を示して主導するかなど、いくつかの要因によって影響を受けると考えていた(低度の確信性)。
また、医療従事者と高齢者の間のコミュニケーションに影響を与える可能性のある要因も明らかになった。要因には、対象疾患やワクチンに関する医療従事者の見解や経験、ワクチンサービスの組織的・実用化に関する見解や経験などが含まれていた。
このビューの更新状況
2020年3月21日までに発表された研究を検索した。
《実施組織》増澤祐子、山本依志子 翻訳 [2021.8.20] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD013706.pub2》