この概要では、ランダム化比較試験から得られた多くのデータを示して、「ネットワーク・メタアナリシス」と呼ばれる高度な分析を含む。この分析では、褥瘡の予防や治療のためのあらゆるタイプの体圧分散用具を比較する。この相互作用のある分析手法は、データを一定の方向に導くことに役立つかもしれない。 https://stopthepressure.shinyapps.io/Cochrane_support_surface_reviews/.
要点
静止型エアマットレスまたは上敷マットレス、圧切替型エアマットレスまたは上敷マットレス、手術台に使用されるゲル素材のパッドは、褥瘡予防において、フォームマットレスよりも優れている場合がある。
フォームマットレスと比較して、圧切替型エアマットレスや上敷マットレスは、おそらく褥瘡予防において費用を上回る健康上の利点があると考えられる。
静止型エアマットレスや上敷マットレスは、フォームマットレスよりも潰瘍治癒に優れている場合があるが、費用がかかる可能性がある。
褥瘡の予防や治療にはどのような治療法が最適なのか、それらの治療法が人々の快適さや生活の質にどのような影響を与えるのか、また、望ましくない影響があるのかどうかは不明である。
褥瘡とは何か?
褥瘡(床ずれとも言われる)とは、長時間の圧迫や摩擦によって皮膚やその下の組織にできる傷のことである。運動機能が低下している人や、長時間ベッドに横になっている人は、褥瘡が発生するリスクがある。
何を知りたかったのか?
褥瘡の人のために特別に設計されたベッド、交換マットレス、上敷マットレスには多くの種類がある。これらは、さまざまな素材(フォーム、エアセル、ゲルパッドなど)で作られており、2つのグループに分けられる。
- 皮膚に一定の圧力をかける反応性(静止型)の表面
- 身体の下の圧力を定期的に再分配する活動的(圧切替型)な表面
このレビューでは、反応性の表面(静止型)と活動的な表面(圧切替型)という違う種類のマットレスについて、以下の点を知りたかった。
- 褥瘡の予防をするか
- 褥瘡の治癒を促進するか
- 快適で、生活の質を向上させるか
- 費用を上回る健康上のメリットがあるか
- 望ましくない影響があるか
また、褥瘡の予防や治癒のために、どの方法が一番いいのかを知りたいと思った。
実施したこと
褥瘡の予防と治療に関して、さまざまなベッド、交換マットレス、上敷マットレスを評価し、慎重にデザインされたすべての研究(ランダム化比較試験)の結果をまとめたコクランレビューを検索した。コクランレビューは、医療介入の有効性に関する高いレベルのエビデンスを提供する。これらのレビューの結果をまとめた(レビューの概要という)。
また、これらのレビューに含まれている研究を集め、利用可能なすべての治療法を同時に比較する分析を行った(ネットワーク・メタアナリシスという)。研究の結果を比較してまとめ、研究方法や規模などの要因から、エビデンスの確実性の評価を行った。
わかったこと
褥瘡予防効果
褥瘡予防のためのベッド、交換マットレス、上敷マットレスの使用に関する4件のレビューが見つかった。その中から、40件の研究(12,517人)をネットワーク・メタアナリシスを使用して、褥瘡リスクの低減について評価した。ネットワーク・メタアナリシスのエビデンスによると、静止型(反応性)エア上敷マットレス、圧切替型エアマットレス、手術台で使用する(反応性)ゲル素材のパッドは、フォームマットレスと比較して褥瘡リスクを低減する可能性がある。
また、新たな褥瘡が発生するまでの時間を評価した10件の研究(7211人)をネットワーク・メタアナリシスに組み入れた。ネットワーク・メタアナリシスのエビデンスによると、反応性であるエアマットレスは、フォームマットレスと比較して、新しい褥瘡が発生する可能性を減少させることが示唆された。
褥瘡治療における効果
褥瘡の治癒に関するレビューが2件見つかった。その中から、4件の研究(397人)をネットワーク・メタアナリシスに組み入れた。ネットワーク・メタアナリシスのエビデンスによると、反応性であるエアマットレスを使用したほうが、フォームマットレスよりも、褥瘡がある多くの患者が完全に治癒する可能性がある。
エビデンスの概要によると、褥瘡が完全に治癒するのに必要な時間を見た場合、反応性であるエアマットレスはフォームマットレスと比較して褥瘡が治癒する可能性が示唆された。
しかし、褥瘡の予防または治療に、どの治療法が最適なのかは不明である。
その他の褥瘡予防・治療効果
エビデンスの概要によると
- 圧切替型エアマットレスは、フォームマットレスと比較して、おそらく褥瘡の予防において費用を上回る健康上の利点がある。
- 反応性であるエアマットレスは、褥瘡の治癒においてフォームマットレスよりもコストがかかる可能性がある。
- これらのベッド、交換マットレス、上敷マットレスのその他の利点やリスクについては不明である。
エビデンスの限界は何か?
見つかったレビューは信頼性の高い方法を用いていたが、ほとんどの研究は小規模で、結果に誤差が生じる可能性の高い方法を用いていた。
このレビューの更新状況
この概要に記載されているエビデンスは、2020年7月までのものである。
《実施組織》堺琴美、冨成麻帆 翻訳[2021.08.26]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD013761.pub2》