レビューの論点
アントラサイクリン系化学療法を受けた成人および小児のがん患者における心臓障害の予防または軽減に対するデクスラゾキサンの有用性に関するエビデンス(科学的根拠)を評価した。また、心臓障害以外にも、抗腫瘍効果(すなわち生存率および奏効率)、生活の質および有害作用(治療による望ましくないまたは有害な影響)に関してデクスラゾキサンの潜在的効果を検証した。
背景
アントラサイクリンはさまざまな種類のがんに使用できる、有効な化学療法剤である。しかし、累積投与量(時間とともに投与された総量)に応じて心臓障害(心毒性)のリスクがある。心毒性は無症候性心機能不全(心機能が制限されたことを示す結果が検査により得られているものの、患者に症状が認められない)を引き起こす場合があり、この状態は症候性心不全(患者に症状が認められる)へと進行する可能性がある。デクスラゾキサンは、この心臓障害を予防または軽減する可能性がある医薬品である。
本レビューは以前報告されたコクランレビューの3回目のアップデート版である。前回のレビューでは心臓保護剤(心臓を保護する薬剤)の候補となり得るすべての薬剤を検討したが、これを分割し、本レビューではデクスラゾキサンのみに焦点を当てる。
研究の特性
本エビデンスは2021年5月現在のものである。
デクスラゾキサンを検討した13件のランダム化試験(対象者を2つ以上の群に無作為に割り付ける臨床試験)を同定した。内訳は、小児を対象とする5件の研究(白血病、リンパ腫または固形腫瘍を有する小児1252例)および成人を対象とする8件の研究(主に乳がんと診断された成人1269例)であった。
主要な結果
解析結果:
- 成人において、デクスラゾキサンはアントラサイクリン系薬剤を投与された成人の心臓障害を予防または軽減することができた。
- 小児において、デクスラゾキサンの効果は治療群によって差が認められたが、このような知見が認められたのは、心転帰(心臓と関連)の1項目、具体的には症候性心不全と無症候性心機能不全を統合した項目のみであった。
- 成人において、生存率に対する悪影響または奏効率の低下を示すエビデンス(科学的根拠)は得られなかった。
- 小児において、全生存率や腫瘍反応率の低下を示すエビデンスは確認されなかった。
有害作用に対する影響はさまざまであった。デクスラゾキサンを投与した小児は、二次がん(新たながん)のリスクが高まる可能性がある。このようなアウトカムは、成人では評価されていない。
いずれの研究でも参加者の生活の質(Quality of Life:QOL)は評価されなかった。
デクスラゾキサンの使用について、特に小児における決定的な結論をくだす前に、より質の高い研究が必要である。アントラサイクリンによる心臓障害のリスクが高いと予想される場合、アントラサイクリンを投与する成人および小児のがん患者にデクスラゾキサンを使用することは妥当であるかもしれないという結論に達した。しかしながら、臨床医と患者は、デクスラゾキサンの心臓保護作用と、二次がんを含め想定し得る有害作用の可能性のリスクとを、個々の患者ごとに比較検討する必要がある。小児に関して、International Late Effects of Childhood Cancer Guideline Harmonization Group(小児がん晩期合併症国際協調ガイドライングループ)は診療ガイドラインを策定した(www.ighg.org)。
エビデンスの質
小児において、検討したほぼすべてのアウトカムについてエビデンスの質が低いと評価し、2つのアウトカム(1つは症候性心不全と無症候性心機能不全を統合したもの、もう1つは奏効率)についてエビデンスの質が極めて低いと評価した。成人では、検討したほぼすべてのアウトカムについてエビデンスの質を中等度と評価し、生存率に関する2つのアウトカムについてエビデンスの質が低いと評価した(生存率に関する他の2つのアウトカムに関しては中等度と評価)。
研究デザインの問題および一部の研究における参加者数の少なさのいずれかまたは両方が原因で、エビデンスの質の高さに限界が認められた。
《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2022.11.1] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD014638.pub2》