患者が保有する情報とは、病気を持つ人が自分のケアに関する個人情報を保持することである。このような記録は、多くの臨床現場で標準になりつつあり、患者の間でも人気が高まっている。これは特に、精神疾患をもつ当事者が病院に入院しておらず、複数の専門家からケアを受けている場合に当てはまる。当事者に自分のケアに関する情報を提供することは、当事者の治療に関与しているという気持ちを高めると考えられており、サービスに対する満足度と参加度を高めることも目的としている。さらに早期治療と入院を防ぐことを確実にするものである。
しかし、重度の精神疾患をもつ人にとって、患者が保有する個人情報がどのような価値があるかは不明であり、その有効性を評価する研究も稀である。いくつかの調査によると、多くの人が患者の記録の申し出を断る一方で、記録を持つ人の大多数は記録をすることが有用であると報告している。
このレビューは、2011年の調査に基づき、合計607人を対象とした4つの試験が含まれており、重度の精神疾患をもつ人々に対する患者が保有する情報の効果を評価している。主に、関連する研究の数が少なく、いくつかの結果報告は不十分であった。中程度の質のエビデンスに基づくと、このレビューでは、患者が保有する情報は入院を減少させず、また措置入院を減少させたり、重度の精神疾患をもつ人々に診療の予約への参加を促したりすることはなかった(通常通りの治療と比較した場合)。ケアに対する満足度やコスト、メンタルヘルスへの影響などといったその他の重要な効果指標については、取り上げた4件の研究の質が限られているため、情報を得ることができなかった。したがって、重度のメンタルヘルスの問題をもつ人々のための患者が保有する情報に関する知識とエビデンスにはギャップがある。また患者が保有する様々な情報について、(例えば、メンタルヘルスの支援チームが関与する場合やどのような種類の情報が記録に含まれるかなど)さらなるエビデンスが必要である。精神疾患をもつ人々に関する患者が保有する情報の効果を評価するためには、大規模で、行き届いた実施や報告がなされた研究が必要である。現在、2つの重要な無作為化試験が行われている。現在のところ、エビデンスとのギャップはあるにものの、患者が保有する情報は低コストで、また患者側に受け入れられやすいため、その利用は拡大していくと考えられる。しかし、さらなる大規模かつ行き届いた実施や報告がなされる臨床研究がない限り、患者の保有する情報が人々にとって有益であり、費用対効果が高いと仮定することはできない。
この平易な要約は、Rethink Mental Illnessに参加するBenjamin Grayによって作成された。Rethink Mental Illness.Email: ben.gray@rethink.org
《実施組織》 相田早織 翻訳, 佐藤さやか 監訳 [2021.4.15] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所地域・司法精神医療研究部(以下、NCNP精研地域部;cochranereview.ncnpcmhl@gmail.com)までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。NCNP精研地域部では最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD001711.pub2》