急性喘息の救急科治療における吸入副腎皮質ステロイド(薬)(以下、ステロイド)の早期使用

喘息は世界で最も一般的な慢性疾患です。全ての年齢の、全ての民族背景を有する3億人が喘息を罹患し、世界で250人に1人が喘息で死亡していると思われます。喘息発作では、気道(肺に至る経路)が筋けいれんおよび腫脹(炎症)により狭まります。ステロイドを腫脹の縮小目的に使用することができます。ステロイドは吸入あるいは、経口投与または静脈内点滴により全身投与可能です。 喘息発作に対する標準治療は、β<sub>2</sub>刺激薬(気道を拡張します)および全身性ステロイド(炎症抑制)の投与です。本レビューの目的は、吸入ステロイド(ICS)が救急科治療現場で有益か否かを判断することでした。総数90件の試験が本レビューのために同定され、20件が関連性ありとみなされ、組み入れ対象として選択され(小児対象13件、成人対象7件)、患者総数は1,403名でした。 本レビューでは、吸入ステロイド単独投与または全身性ステロイドとの併用が喘息発作を緩和し、忍容性も良好で、副作用も少ないことが明らかにされました。しかし、最も有効な薬剤および用法は不明です。本レビューに組み入れられた試験は多種のICS投与でした。すなわち、べクロメタゾン(Beclovent/Becloforte/QVAR)、ブデゾニド(Pulmicort)、デキサメタゾンリン酸ナトリウム、プロビオン酸フルチカゾン(Flovent or Flixotide)、フルニソリド(Aerobid)およびトリアムシノロン(Azmacort)です。本レビューでは又、この状況でのICS投与により入院数が減少したことが明らかになりました。ICS投与患者100名当たりの入院数はプラセボに比し、32例から17例に減少しました。今回は急性喘息発作に対するICS薬単独投与を全身性ステロイドの代替法として裏づけるエビデンスが十分に得られませんでした。 しかし、救急科治療でのICS使用に関してまだ解消されていない疑問が多数残っています。今後の研究では、最適の用法、投与頻度、送達デバイス、有効なICS薬の同定、明確に規定されたアウトカム(入院基準、肺機能検査および救急科退院後の追跡調査)の同定を主眼とすべきです。

著者の結論: 

ICS療法によりステロイドの経口または静脈内投与を受けない急性喘息患者の入院数が減少した。また全身性ステロイド使用と併用した場合も入院数が減少したが、大半の最近のエビデンスには異論が存在する。急性喘息患者への全身性ステロイド投与にICS投与を併用した場合、肺機能または臨床スコアに臨床的に重要な変化があったとするエビデンスは不十分である。急性喘息への全身性ステロイド療法の代わりにICS療法が可能であるとするエビデンスも不十分である。最も適切な薬剤の使用法および送達システムを明らかにし、どの患者がICS療法から最も利益を得る傾向があるか解明するには、さらなる研究が必要である。肺機能について同様の指標および報告方法、および一般的で有効な臨床スコアを使用することが、本メタアナリシスの今後の版に有用と思われる。

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背景: 

全身性副腎皮質ステロイド(薬)(以下、ステロイド)療法は、急性喘息管理の中心的役割を果たす。吸入ステロイド(ICS)の使用もこの場合有益と思われる。

目的: 

救急科(ED)で管理する急性喘息患者の治療のためのICSの利益を判定する。

検索戦略: 

比較試験のCochrane Airways Group specialised registerから比較臨床試験を同定した。組み入れた試験の参考文献、既知のレビューおよび本文も検索した。最近の検索は2012年9月に実施された。

選択基準: 

ランダム化比較試験(RCT)および準RCTを組み入れた。患者が急性喘息でEDまたはそれ相当の科を受診し、標準治療の他、ICSまたはプラセボの治療を受けた場合、試験を組み入れ対象とした。2名のレビューアが別々に関連可能性のある論文を選択し、別々に組み入れ対象となる論文を選択した。2名のレビューアが方法論的質を別々に評価した。本レビューに組み入れた3種の試験があった。すなわち1)ICSとプラセボを比較する、全身性ステロイドをいずれの治療群でも使用しなかった試験、2)ICSとプラセボを比較し、両治療群とも全身性ステロイドを使用した試験、および3)ICS単独投与を全身性ステロイドと比較する試験であった。分析のため、最初の2種の試験を一次解析で別々のサブグループとして組み入れ(ICSとプラセボの比較)、3番目の試験は二次解析に組み入れた(ICSと全身性ステロイドの比較)。

データ収集と分析: 

著者が抽出された情報の妥当性を実証できなかった場合、2名のレビューアは別々にデータを抽出した。欠測データは、著者から入手するか、論文記載の他のデータから算定した。適宜、個別およびプールした二値アウトカムをオッズ比(OR)を用い95%信頼区間(CI)で報告した。適宜、個別およびプールした連続アウトカムを平均差(MD)または標準化平均差(SMD)を用いて95%CIで報告した。一次解析では固定効果モデルを用い、感度分析ではランダム効果モデルを用いた。I二乗(I<sup>2</sup>)統計により異質性を報告した。

主な結果: 

20件の試験が一次解析対象として選択され(13件の小児対象、7件の成人対象)、患者総数1,403名であった。ICS投与を受けた患者は入院する傾向が低く(OR 0.44、95%CI 0.31~0.62、12件の試験、患者960名)、異質性は中等度だった(I<sup>2</sup> = 27%)。これはプラセボに比し、ICS治療患者100例あたり入院32例が17例に減少したという事実を表す。全身性ステロイドの併用に基づく入院患者のサブグループ分析では、両サブグループとも入院患者減少というICSの利益を示した(ICSと全身性ステロイド対全身性ステロイド:OR 0.54、95%CI 0.36~0.81、5件の試験、N = 433;ICS対プラセボ:OR 0.27、95%CI 0.14~0.52、7件の試験、N = 527)。しかし、全身性ステロイドにICSを併用したサブグループには中等度の異質性が認められた(I<sup>2</sup> = 52%)。ICS治療患者は、治療の3~4時間後に、最大呼気流量(PEF:MD 7%、95%CI 3%~11%)および1秒量(FEV<sub>1</sub>:MD 6%、95%CI 2%~10%)にわずかだが有意な改善を認めた。少数の試験のみ上記アウトカムが報告されたためメタアナリシス対象に組み入れ可能となり、本比較では試験の大半がいずれの治療群に対しても全身性ステロイドを使用していなかった。振戦または悪心および嘔吐について、ICS投与により重大な有害作用のエビデンスは認められなかった。ICS単独投与を全身性ステロイド単独投与と比較する試験の二次解析では、試験間の異質性によりデータの統合または信頼可能な結論の決定が困難になった。

訳注: 

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