生殖補助医療(ART)を受けている女性における移植胚の数

レビューの論点

ARTを受けているカップルにおいて、胚移植は何個するべきか?

背景

多胎妊娠は、母体と赤ちゃんに深刻な健康リスクをもたらす。単一胚移植(SET)は双子や三つ子、あるいはそれ以上の多胎の可能性を減らすことができるが、妊娠や出産の可能性を低下させるリスクとのバランスをとる必要がある。ARTを受けている女性の胚移植数に関するエビデンスをレビューした。エビデンスは2020年3月現在のものである。

研究の特徴

17件のランダム化比較試験を特定し、対象となる参加者は計2505人であった。ほとんどの試験が企業からの資金提供を受けていなかった。反復した単一胚移植(SET)と複数個の胚移植を比較した試験はなかった。参加者が少ない研究が大半を占めていた。以下に報告されている複数個の胚移植の結果は、二個の胚移植(DET)のことを指している。

主な結果

単一胚移植(SET)を繰り返した場合と、単一周期に複数個の胚移植を行った場合の比較

質の低いエビデンスによると、SETの反復(単一胚移植を2周期、または単一胚移植を1周期とその後に単一凍結胚移植)を2個の胚移植(DET)と比較しても、全体的な出生率と臨床妊娠率に大きな差があることは示されなかった。DETを1周期行ったら42%の確率で出産する女性の場合、単一胚移植を繰り返した場合の確率は34~46%となる。中程度の質のエビデンスによると、DETを1周期行った後に多胎妊娠する確率が13%であるのに対し、SET群では多胎妊娠のリスクがはるかに低い(0~3%)ことが示唆された。流産の確率は、2群間で似かよっていた。

単一周期における、単一胚移植(SET)と複数個の胚移植との比較

新鮮な(訳者注:凍結保存していない)受精卵によるSETを1周期行った後の出生率と臨床妊娠率(CPR)は、新鮮な受精卵によるDETを1周期行った後のアウトカムと比較して低いという質の低いエビデンスが得られた。DETを1周期行った後に46%の確率で出産する女性の場合、SETを1周期行った後の出産率は27~35%であった。しかしながら、多胎妊娠のリスクはDET後の方が高かった。流産の可能性については、2群間で差は認めなかった。

結論

SET後の出生率および臨床妊娠率はDETと比較して低かったが,SETを繰り返した後の出生率およびCPRはDETを1周期行った場合と比較して有意差は認められなかった。しかし、SET後の多胎妊娠率はDETに比べて格段に低い。現在入手可能なエビデンスのほとんどは、予後が良好な若い女性を基にしたものである。

エビデンスの質

エビデンスの質は低いか中程度であったが、これは主に研究方法の報告が不十分であったことと、介入を受ける側だけでなく提供する側に対してもマスキングが行われていなかったことによるものであった。

訳注: 

《実施組織》杉山伸子 小林絵里子 翻訳[2021.01.27]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD003416.pub5》

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