アルコール乱用者のウェルニッケ・コルサコフ症候群に対する予防および治療を目的としたチアミン

ウェルニッケ・コルサコフ症候群(WKS)は、ビタミンB1(チアミン)の不足により発症する脳障害である。眼球運動障害、筋肉の動きの随意協調運動障害(運動失調)および錯乱の一部またはすべての急性発症を特徴とする。患者は急性期に死亡することもあり、生存者の多くは永続的な記憶障害へと進展する。アルコール乱用は、WKSの重要な原因であるが、唯一の考慮すべきことではない。大量の飲酒は、食事からのチアミン取り込みに特定の問題を引き起こす場合もある。

WKSが認められると、チアミンによって治療が行われる。しかし、特に精神的症状の管理においてどの程度有効性が高いかは明白でない。チアミン療法の用量および投与期間に関する推奨事項は任意であるとされている。チアミンとプラセボまたはその他の治療、あるいは異なるチアミン療法を比較するランダム化比較試験(RCT)を検索した。選択基準を満たす2件の研究を同定した。1件は解析可能なデータの報告がなく、もう1件の研究の解析はデザインおよび結果の提示における欠点により限定された。したがって、アルコール乱用によるWKSを予防または治療するためのチアミン療法の適切な用量、頻度、投与経路または投与期間を医師が選択するのに役立つ優れたエビデンスは、RCTからは得られなかった。

著者の結論: 

ランダム化比較試験(RCT)からのエビデンスは、アルコール乱用によるWKSの予防または治療目的でのチアミン療法の用量、頻度、投与経路または投与期間について医師の決定の指針となるには不十分であった。

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背景: 

剖検からの研究では、特にアルコール乱用者にとってウェルニッケ・コルサコフ症候群(WKS)はまれな疾患ではないことを示唆している。チアミンは50年にわたって治療法の選択肢として確立されているが、適切な用量と投与期間については明らかになっていない点が残されている。現在の診療ガイドラインは、症例報告および臨床経験に基づいている。本レビューは2004年発表、2008年に更新されたレビューの再更新である。

目的: 

・過剰なアルコール摂取によるWKS症状の予防・治療に対するチアミンの有効性を評価すること。 ・この適応のためのチアミン療法の最適な剤形、投与量および投与期間を決定すること。

検索戦略: 

2012年9月6日、検索語 「thiamine OR aneurine」を用いて、ALOIS、Specialized Register of the Cochrane Dementia and Cognitive Improvement Group (CDCIG)、「コクラン・ライブラリ」、MEDLINE, EMBASE、PsycINFO、CINAHLおよびLILACSを検索した。ALOISには、すべての主要医療データベース(「コクラン・ライブラリ」、MEDLINE、EMBASE、PsycINFO、CINAHL、LILACS)および多くの試験データベースや灰色文献ソースからの記録が収められている。

選択基準: 

チアミンと他の介入または異なるチアミン・レジメン(剤形、投与量および投与期間が異なる)のランダム化試験。

データ収集と分析: 

2名のレビューア(EDとPWB)が独立してすべての抄録を調べた。関連論文を抽出して、Cochrane Handbook for Systematic Reviews of Interventionsにある基準を用いて方法論的な質について評価した

主な結果: 

選択基準を満たす2件の研究を同定したが、定量分析に十分なデータを含む研究は1件のみであった。Ambrose(2001)は、参加者(107例)をチアミン筋注の5種類の用量のうちひとつに無作為に割り付け、治療2日後にアウトカムを測定した。最低用量(5mg/日)と、その他4種類の各用量とを比較した。遅延交替検査で選択基準を満たすために必要な試験数を確定する際、200mg/日の用量は5mg/日の用量と比較して有意に少なかった(平均差(MD)-17.90、95%信頼区間(CI)-35.4~-0.40、P = 0.04)。その他の用量を5mg/日と比較した場合、有意差はみられなかった。結果の傾向からは、単純な用量反応関係が認められなかった。対象研究は、デザインおよび結果の提示において方法論的欠点があったため、さらなる解析はできなかった。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2015.12.30]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。

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