本レビューの結果から、潰瘍性大腸炎患者の寛解導入に経皮的ニコチンがプラセボよりも優れていることを裏付けるエビデンスが得られた。しかし、本レビューは、標準の薬物療法と比較した場合に経皮的ニコチン療法の有意な利点を確認できなかった。経皮的ニコチンに伴う有害事象は有意であり、患者によってはニコチンの使用に制約がある。
潰瘍性大腸炎は、主に非喫煙者の疾患である。間歇的な喫煙者は、喫煙中に症状が改善されることをしばしば経験する。潰瘍性大腸炎の非喫煙患者が喫煙を始めると寛解する場合がある。潰瘍性大腸炎の寛解導入のための経皮的ニコチンの有効性を検討するランダム化比較試験が開発された。
(1)潰瘍性大腸炎の寛解導入のための経皮的ニコチンの有効性を判定する。(2)潰瘍性大腸炎に対する経皮的ニコチン療法に伴う有害事象を評価する。
1970年から2008年6月までに発表された関連性のある論文を同定するため、検索基準として「ulcerative colitis(潰瘍性大腸炎)」および「transdermal nicotine(経皮的ニコチン)」または「nicotine(ニコチン)」の用語を用いて、MEDLINE(PubMedを介して)およびEMBASEのデータベースを検索した。関連性があると考えられる論文の参考文献リストをマニュアル検索し、その他の研究を同定した。主要な消化器系学会の抄録を検索し、抄録形式でのみ報告されている研究を同定した。Cochrane Central Register of Controlled TrialsおよびCochrane Inflammatory Bowel Disease Group Specialized Trials Registerも検索した。
軽度から中等度の活動性潰瘍性大腸炎患者を経皮的ニコチン(15~25mg/日)またはプラセボあるいは別の治療法(副腎皮質ステロイドまたはメサラミン)にランダムに割り付けたランダム比較試験のみを含めた。
各レビューアが独自にデータを抽出し、各試験方法の質を評価した。レビューアの間で不一致があった場合は合意を得て解決した。主要なアウトカム指標は、主な研究によって定義されている臨床的寛解またはS状結腸鏡検査による寛解(例えば、潰瘍性大腸炎の所見なし)を達成した患者数とし、ランダム化された患者に占める割合(%)として示した(ITT解析)。副次的アウトカムには、臨床反応、有害事象、有害事象による中止を含めた。
9件の研究が同定された。うち5件が選択基準に適合した。患者71例がニコチン群、70例がプラセボ群にランダム化された2件の試験のメタアナリシスから、ニコチンの統計学的に有意な有益性が明らかになった。4-6週間の治療後、経皮的ニコチン群の患者71例のうち19例が臨床的寛解に達し、これに対しプラセボ群で寛解に達した患者は70例のうち9例であった(OR=2.56、95%CI 1.02~6.45)。同じ患者群で、ニコチン群に割り付けられた患者71例のうち29例に改善または寛解が認められたが、これに対してプラセボ群に割り付けられた患者70例では14例に寛解が認められた(OR=2.72、95%CI 1.28~5.81)。左側結腸炎の患者のオッズ比は2.31(95%CI 1.05~5.10)であった。経皮的ニコチンを標準の薬物療法と比較したところ、ニコチンに有意な有益性は認められなかった。4-6週間の標準療法(経口プレドニゾンまたはメサラミン)後に患者63例のうち34例が臨床的寛解またはS状結腸鏡検査による寛解に達したが、これに対して経皮的ニコチン治療患者では66例のうち33例が寛解に達した(OR=0.77、95%CI 0.37~1.60)。経皮的ニコチン治療患者137例およびプラセボまたは標準療法を受けた患者133例を含む5件の研究すべてを統合したメタアナリシスからは、ニコチン療法の統計学的に有意な有益性は明らかにならなかった(OR= 1.23; 95%CI0.71~2.14)。経皮的ニコチン治療患者はプラセボまたは標準療法を受けた患者に比較して、有害事象のために中止する可能性が有意に高く(OR=5.82、95%CI、1.66~20.47)、プラセボまたは標準の薬物療法を受けた患者に比較して、有害事象を発現する患者数が有意に多くみられた(OR=3.54、95%CI, 2.07~6.08)。