慢性尋常性乾癬は、最もよくみられる乾癬である。体のどの部位にも生じるが、最も多いのは肘、膝、頭皮である。通常、最初は「局所」治療薬(皮膚の塗り薬)が用いられる。局所治療薬には、ビタミンD製剤、局所ステロイド剤、タール製剤、ジトラノール、サリチル酸、ビタミンA製剤などがある。慢性尋常性乾癬は、長期にわたって治療しなければならない病気であるため、最も効果が高い治療薬はどれかを見つけだし、有害作用にはどんなものがあるかを知ることが重要である。このレビューでは、一人ひとりの治療経験が異なることに配慮しながら、さまざまな治療薬の平均的な効果を述べている。
177の臨床試験に参加した合計34,808例の患者からエビデンスが集められた。研究期間は約7週間の研究が多いが、1週間~52週間の幅がある。ビタミンD製剤は、プラセボと比べて効果が高いことが明らかにされた(基剤はクリームまたは軟膏)。強力な局所ステロイド剤(ベタメタゾンジプロピオン酸エステルなど)および非常に強力な局所ステロイド剤(クロベタゾールプロピオン酸エステル)も効果が認められた。
ビタミンD製剤と強力または非常に強力なステロイド剤を直接比較した研究がいくつか存在する。これらの製剤を体部に用いたときの効果は同程度であったが、頭皮の乾癬には、ステロイド剤のほうがビタミンD製剤より効果が高かった。ビタミンDとステロイドを併用すると、ビタミンDを単独で用いたときより効果が高く、局所ステロイドを単独で用いたときと比べても効果が高かった。ビタミンD製剤は、おおむねタール製剤より効果が高かったが、ビタミンDとジトラノールの比較では結果がさまざまであった。
体部または頭部に用いた場合、強力なステロイド剤による皮膚刺激感または灼熱感などの「局所有害事象」はビタミンDより少なかったため、ビタミンD製剤の使用は中止されることが多かった。局所治療薬の体内での影響(「全身性有害事象」)を調べた研究では、プラセボと他の治療薬との差は認められなかった。しかし、これは本当に差がないということではなく、全身性有害事象を適切に評価できない試験が多かったためと考えられる。
もっと多くの長期研究で情報が得られれば、この慢性疾患に対する最善の治療法を医師や乾癬患者が選択する手助けになると思われる。
ステロイドは、少なくともビタミンDアナログと同程度の効果を示し、ビタミンDアナログと比較して局所有害事象の発現率が低かった。しかし、慢性尋常性乾癬患者に対するステロイド長期投与については、皮膚萎縮のリスクに関するエビデンスが依然として不足している。長期維持投与に関する情報および十分な安全性データを得るには、今後も調査が必要である。
慢性尋常性乾癬は、最もよくみられる乾癬であり、発赤、肥厚および鱗屑を特徴とする。慢性尋常性乾癬の一次治療には、ビタミンDアナログ、局所副腎皮質ステロイド、タール製剤、ジトラノール、サリチル酸および局所レチノイドなどの局所治療薬が使用される。
慢性尋常性乾癬に対する局所治療薬の有効性、忍容性および安全性をプラセボと比較し、同様にビタミンDアナログ(単独または併用)を他の局所治療薬と比較すること。
以下のデータベースを2011年2月まで検索した:Cochrane Skin Group Specialised Register、コクラン・ライブラリのCENTRAL(2011年第2号)、MEDLINE(1948年以降)、EMBASE(1980年以降)、Science Citation Index(2008年以降)、Conference Proceedings Citation Index – Science(2008年以降)、BIOSIS(1993年以降)、DialogClassicの論文抄録(全発表年)およびInside Conferences(全発表表年)。
進行中の研究および未発表の研究はUK Clinical Research Network Study PortfolioおよびmetaRegister of Controlled Trialsから検索した。関連試験をさらに参照するため、既発表研究およびレビューの参考文献をチェックし、新たに発表された研究があれば、その情報を試験実施者および会社に問い合わせた。
有害作用については、2011年2月にMEDLINEおよびEMBASE(2005年以降)を利用して別途調査した。
ランダム化比較試験(RCT)および有害作用の最終調査は、いずれも2012年8月に実施した。これらの最終調査で特定したRCTおよび有害作用についての研究は、本レビューにまとめることはできなかったが、次回更新時に盛り込む。
慢性尋常性乾癬患者を対象として、実薬の局所治療薬とプラセボまたはビタミンDアナログ(単独または併用)を比較するランダム化試験。
著者1名が研究データを抽出し、研究の質を評価した。別の著者がこれらのデータをチェックした。欠落データについては、必ず試験実施者および会社に問い合わせた。また、脱落に関するデータ、局所および全身の有害事象に関するデータも抽出した。長期試験は、期間が24週間以上の試験と定義した。
今回の更新では48試験を追加し、7種類の新たな実薬治療薬に関してエビデンスが得られた。これらを合わせると、本レビューには177のRCT試験の参加者34,808例の情報が含まれることになった。このうち26試験は頭皮乾癬に関する試験であり、6試験は逆性乾癬、顔面乾癬または両方に関する試験であった。Review Manager(RevMan) を用いて数えた研究数はこれより多いが(190研究)、これはレビューアらが、プラセボとの比較および実薬との比較を報告した研究を2つの研究として「レビューに含めた研究の特性」表に算入したためである。
体部に用いたビタミンDアナログのほとんどはプラセボと比較して有意な効果を示し、標準化平均差(SMD)の範囲は、ベコカルシジオール1日2回で-0.67(95%CI -1.04~-0.30;1研究,119例)~パリカルシトール1日1回で-1.66(95%CI -2.66~-0.67;1研究、11例)であった。6点制の総合改善尺度では、これらの効果はそれぞれ0.8点および1.9点であった。ステロイドのほとんどでもプラセボより良好な効果が認められたが、強力なステロイドの効果(SMD -0.89;95%CI -1.06~-0.72;I²統計量=65.1%;14研究、2,011例)は非常に強力なステロイドの効果(SMD -1.56;95%CI -1.87~-1.26);I²統計量=81.7%;10研究、1,264例)より小さかった。6点制の総合改善尺度では、これらの効果はそれぞれ1.0点および1.8点であった。ジトラノールとビタミンD/ステロイドの併用およびタザロテンは、いずれもプラセボと比較して有意に効果が高かった。
体部の乾癬について、ビタミンDと強力または非常に強力なステロイドとを直接比較したところ、結果はさまざまであった。ビタミンDとステロイドの併用は、体部および頭皮の乾癬のいずれについても、ビタミンD単独またはステロイド単独と比較して有意に効果が高かった。ビタミンDは、コールタール製剤と比べると総じて効果が高かったが、ジトラノールと比較したときの結果はさまざまであった。頭皮の乾癬では、ビタミンDの効果は強力なステロイドおよび非常に強力なステロイドのいずれと比べても有意に低かった。プラセボ比較試験で得られた間接的なエビデンスからも、これらの結果が裏づけられた。
体部および頭皮の乾癬では、強力なステロイドが灼熱感または刺激などの局所有害事象を引き起こす頻度は、ビタミンDより低かった。体部または頭部におけるビタミンD/ステロイド併用の忍容性は、強力なステロイドと同程度であり、ビタミンD単独と比べると有意に良好であった。臨床での皮膚萎縮を評価した試験は25試験のみであり、皮膚萎縮症例はほとんど認められなかったが、評価方法が万全であったかどうかは、各試験から報告された情報が不十分であるため判断できない。皮膚萎縮の臨床評価法は感度が低いため、最も重症な症例でなければ検出できない。局所製剤の比較において、全身有害作用に関する有意差は認められなかった。
《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2015.12.30]
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