産前(妊娠)うつ病の治療介入(薬理学的、心理社会的、心理学的以外の介入)

産前(妊娠)うつ病の治療に、鍼療法、妊産婦向けのマッサージ、高照度光療法、またはω3脂肪酸摂取が有効な介入であるかどうかを判断できる十分なエビデンスはない。

約12%の女性が妊娠中にうつ病を患う。研究によると、相対的に産前(妊娠)うつ病を発症するリスクが高い女性の傾向は、著しいストレスを感じる、うつ病の既往歴がある、社会的支援が受けられない、家庭内暴力を経験している、結婚していないかひとり暮らしである、意図しない妊娠であるか人間関係が良好でないことである。症状として挙げられるのは、圧倒的な悲しみや悲嘆の感情、通常なら楽しい活動への興味や喜びの喪失、自己否定気分や罪悪感、睡眠障害、味覚の変化、重度の倦怠感、集中力の低下などである。残念ながら、妊娠中のうつ病は母親のセルフケア行動の悪化につながり、胎児の健康に影響を及ぼす可能性がある。また、産後うつ病発症の重大なリスクとなる。多くの女性は妊娠中に薬物を摂取することを好まず、しばしば他の補完療法に関心を示す。本レビューでは、産前(妊娠)うつ病の治療として、うつ病に特化した鍼療法(治療目的で表在の体組織に針を刺入すること)、妊産婦向けのマッサージ、高照度光療法、ω3脂肪酸摂取を評価するランダム化比較試験わずか6件のみ(女性402例を対象)を評価対象とした。選択された試験は規模が小さすぎるため結論に至らなかった。また、さまざまな介入、アウトカム指標、比較を扱っていた。これらの治療が産前(妊娠)うつ病の治療に効果があるかどうかを判断するには、試験のエビデンスが不十分であった。さらなる研究が必要である。

著者の結論: 

このエビデンスは、産前(妊娠)うつ病の治療として、うつ病に特化した鍼療法、妊産婦向けのマッサージ、高照度光療法、ω3脂肪酸摂取に関する推奨方針を提示するだけの決定的なものではない。選択された試験は、サンプルを一般化できず、推奨を行うには規模が小さすぎた。

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背景: 

21件の研究のメタアナリシスから、妊娠期間中を通じたうつ病の平均有病率は10.7%であり、妊娠前期の7.4%から、妊娠中期の12.8%までに及ぶことが示された。母親の治療選好と、胎児および乳児の健康上のアウトカムへの潜在的な懸念から、多種多様な非薬理学的治療の選択肢が必要である。

目的: 

産前(妊娠)うつ病の治療において、通常の分娩前ケアと比較した薬理学的、心理社会的、心理学的以外の介入の効果を評価すること。

検索戦略: 

Cochrane Pregnancy and Childbirth Group’s Trials Registerを検索した(検索日:2013年1月31日)。二次文献を調べ、他の発表済みまたは未発表の試験を同定するためにその分野の専門家に問い合わせた。

選択基準: 

産前(妊娠)うつ病を治療するための非薬理学的/心理社会的/心理学的介入を評価するために、許容できる質のすべての発表済みおよび未発表のランダム化比較試験。

データ収集と分析: 

2人のレビュー著者が、方法論的質の評価およびデータ抽出の評価に参加した。カテゴリデータはリスク比(RR)で、連続データは平均差(MD)で結果を示した。

主な結果: 

米国、スイス、台湾で実施された6件の試験(女性402例を対象)が選択された。ほとんどの比較で、単一試験からのデータを用いており、対照群と介入群の間に統計学的な有意差はほとんどなかった。

妊産婦向けのマッサージと一般的な鍼療法(対照群)を比較したある試験(女性38例を対象)では、治療直後に臨床的うつ病または抑うつ症状のある女性の数に有意な減少は認められなかった(それぞれリスク比[RR]0.80、95%信頼区間[CI]0.25~2.53;平均差[MD]-2.30、95% CI -6.51~1.91)。別の試験(女性88例を対象)では、妊産婦向けのマッサージを受けた女性は一般的な鍼療法を受けた女性と比較して、治療の反応率またはうつ病の寛解率に差がなかった(それぞれRR 1.33、95% CI 0.82~2.18;RR 1.14、95% CI 0.59~2.19)。

ある試験(女性35例を対象)で、うつ病の症状に特化した鍼療法では、一般的な鍼療法と比較して、治療直後に臨床的うつ病または抑うつ症状のある女性の数は有意に減少しなかった(RR 0.47、95% CI 0.11~2.13;MD -3.00、95% CI -8.10~2.10)。ただし、うつ病に特化した鍼療法を受けた女性のほうが、一般的な鍼療法を受けた女性と比較して、治療への反応率は高かった(RR 1.68、 95% CI 1.06~2.66)。

ある試験(女性149例を対象)では、女性にとって大切な人からの妊産婦向けのマッサージでは、標準的なケアと比較して、治療直後に抑うつ症状のある女性の数が有意に減少した(MD -6.70、95% CI -9.77~-3.63)。 加えて、高照度光療法を受けた女性は、低照度のプラセボ群と比較して、5週間の治療期間にわたりうつ病尺度の平均スコアが有意に大きく変化した(1試験、n = 27、MD -4.80、95% CI -8.39~-1.21)。ただし、治療への反応や高い寛解率を示す可能性が高いわけではなかった(RR 1.79、95% CI 0.90~3.56;RR 1.89、95% CI 0.81~4.42)。

最後に、2件の試験でω3オイルの治療効果を調べていた。ω3を摂取した女性は、プラセボ群と比較して、8週間の治療期間後にうつ病尺度の平均スコアが有意に低下した(1試験、n = 33、MD -4.70、 95% CI -7.82~-1.58)。反対に、ある小規模の試験(女性21例を対象)では、ω3を摂取した女性とプラセボ群で、うつ病尺度の平均スコアの変化に有意な差が認められなかった(MD 0.36、95% CI -0.17~0.89)。ω3を摂取した女性は、治療への反応率が高いわけではなく(RR 2.26、95% CI 0.78~6.49)、高い寛解率を示すわけでもなかった(RR 2.12、95% CI 0.51~8.84)。プラセボ群における女性の副作用の報告は、ω3群と同等であった(RR 1.12、95% CI 0.56~2.27)。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2016.1.1]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。

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