背景
テリフルノミドは、関節リウマチで初めて使用され、抗増殖作用(細胞増殖抑制作用)と抗炎症作用(細胞傷害に対する局所反応を抑制する作用)の両方の作用を有することが知られている。2012年には、多発性硬化症(MS)の再発(神経学的症状の再発増悪を伴う)患者に対するこれらの特性を活かした使用が、米国食品医薬品局(FDA)に、また2013年にはEuropean Medicines Agencyにより承認された。
目的
テリフルノミドを単剤または多剤併用した2種類の異なる用量のテリフルノミドを用いて、MSの経過を改善するための有効性と安全性を評価する。
研究の特性
著者らは、テリフルノミドの有効性を主に、少なくとも1回は症状が再燃した患者の数、障害が進行した患者の数、年率に換算した症状の再燃率(症状が再燃した患者数/1年あたりの参加者)、障害進行までの時間の観点から検討した。安全性は、1-2年後に副作用があった参加者の数、重篤な副作用があった参加者の数、副作用を理由に試験を辞退または脱落した参加者の数として評価した。該当する文献の中で、5件の研究が適格基準を満たしていた。3,231人の参加者を対象に、テリフルノミド単剤またはインターフェロン-β(IFNβ)と呼ばれる別の薬との併用で、プラセボ(偽薬)またはIFNβ-1aと比較して有効性と安全性を評価した。このエビデンスは2015年9月現在のものである。
主な結果
著者らは、テリフルノミドが用量に関わらず1年後、2年後の再発の発生を減少させたという低質なエビデンスを見出したが、一方で、1年後、2年後の障害の進行を抑制したという非常に低質なエビデンスがあることも示した。低用量ではなく高用量のテリフルノミドは、1年後の再発を減少させる点でIFNβ-1aと同様の有効性を示したが、エビデンスの質は非常に低かった。安全性に関しては、下痢(便が頻繁に出る、緩くなる)、吐き気(気分が悪くなる)、薄毛、好中球減少症(好中球と呼ばれる感染を撃退する役割を持つ白血球の量が少ない状態)、リンパ球減少症(リンパ球と呼ばれる感染を撃退する役割を持つ白血球の量が少ない状態)などが報告された。一般的に、これらの副作用は軽度から中等度であり、通常は治療を中止することはないが、高用量であればあるほどこれらの副作用が起こりやすくなる。
エビデンスの質
結果の質が低い/非常に低いのは、主に再発評価の盲検化が不十分であったこと(評価者は参加者がどの治療を受けたかを認識していた)、脱落率が高かったこと(試験から離脱した人がいた)、6ヵ月未満で障害の進行が確認されたこと、参加者の数が少なかったこと、試験内での治療期間が異なっていたことなどが原因である。研究期間の長さは、MSが慢性的に生涯にわたって治療が必要な疾患として重要な点であり、より長い期間のモニタリング(追跡調査)を伴う研究の必要性を示唆している。このレビューに含まれる5つの研究は、製薬会社がスポンサーとなっており、これは利益相反の潜在源として知られており、したがってバイアスがある。
《実施組織》冨成麻帆、小林絵里子 翻訳[2020.11.24]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD009882.pub3》