背景
多発性骨髄腫は血液腫瘍の一種で、骨髄内の形質細胞に影響を及ぼす。ボルテゾミブは骨髄腫治療薬の一つであり、プロテアソーム阻害薬と呼ばれている。 プロテアソームは全ての細胞に存在し、細胞の機能や成長に重要な役割を果たす。がん細胞は他の細胞よりもボルテゾミブの作用によく反応するため、がん細胞が死滅するか、成長が停止する。
試験の特性
我々は骨髄腫におけるボルテゾミブ治療の利益と不利益を知るために、 2016年1月まで医学データベースと臨床試験レジストリを検索した。 同じ基礎治療にボルテゾミブを併用するかしないかの比較試験、ボルテゾミブを含む新規レジメンと、それとは異なる基礎治療の比較試験、同じ基礎治療にボルテゾミブを併用するか別の薬剤を併用するかの比較試験、または ボルテゾミブ単剤と他の基礎治療単剤との比較試験を検索に含めた。 また、新たに骨髄腫と診断された患者や再発した患者を対象とした試験および、ボルテゾミブの用量や投与法、治療スケジュールを比較した試験も含めた。
主な結果
検索の結果、骨髄腫患者5,626例が参加した16件の試験を特定した。本レビューにおいて、ボルテゾミブを投与した患者は投与しなかった患者と比較して、生存率、無増悪期間、奏効率が良好であったことが示唆されている。ボルテゾミブ治療には、ある種の血液細胞の減少、便秘などの消化器系への影響、下痢、吐き気、嘔吐、神経痛、手足のうずき、感染症を含む多くの副作用がある。試験が行なわれたある対照グループでは、心臓へのリスクがより大きいことがわかった。ボルテゾミブ治療における死亡リスクは、解析したいずれのグループにおいても不確かであった。4件の試験のみでQOL(生活の質)を評価し、全体での解析はできなかった。
エビデンスの質
死亡率または死亡数のエビデンスの質は高から中程度であると判断した一方、無増悪生存期間のエビデンスの質は低、有害事象のエビデンスの質は非常に多様である(低から高)と考えた。治療関連死の評価については、差があるとのエビデンスはなく、比較1(同じ基礎治療にボルテゾミブを併用するかしないかの比較)ではエビデンスの質は低、比較2(ボルテゾミブを含む新規レジメンと、それとは異なる基礎治療の比較、同じ基礎治療にボルテゾミブを併用するか別の薬剤を併用するかの比較、または ボルテゾミブ単剤と他の基礎治療単剤との比較)では、エビデンスの質は非常に低いものだった。
結論
ボルテゾミブを投与している患者は、投与していない患者と比較して奏効率が良好であり、無増悪期間および生存期間が長かったと考えられるが、副作用も多く生じた。他のプロテアソーム阻害薬も開発されているため、今後の研究では、新薬がさらに便益をもたらすものかどうか、ボルテゾミブより副作用が少ないかどうかに焦点を当てるべきである。健康関連の生活の質(QOL)についてもさらに試験が必要である。
本メタアナリシスにより、ボルテゾミブを投与している骨髄腫の患者では、投与しなかった患者と比較して、OS、PFSおよび奏効率に関してボルテゾミブが有益であったことがわかった。 この有益性は、ボルテゾミブを含む新規レジメンと、それとは異なる基礎治療の比較試験、同じ基礎治療にボルテゾミブを併用するか別の薬剤を併用するかの比較試験、またはボルテゾミブ単剤と他の基礎治療単剤との比較試験において観察された。 プロテアーゼ阻害薬の新薬がリスク・ベネフィットの詳細を改善するかどうかを確かめるために今後も評価が必要であるとともに、HRQoLについてもさらに試験を実施する必要がある。
多発性骨髄腫は、形質細胞の悪性腫瘍であり、がんのおよそ1%、血液腫瘍の12%を占める。 画期的医薬品であるプロテアーゼ阻害薬のボルテゾミブは、新たに診断された骨髄腫と再発・難治性骨髄腫において、単剤療法または併用療法として広く使用されている。
システマティック・レビューとメタアナリシスを実施し、ボルテゾミブにおける生存率(OS)、無増悪生存期間(PFS)、奏効率(RR)、健康関連のQOL(HRQoL)、有害事象(AE)および治療関連死(TRD)への影響を評価した。
MEDLINE、Cochrane Central Register of Controlled Trials、EMBASE(2016年1月27日まで)、会議録およびランダム化比較試験(RCT)の臨床試験レジストリを検索した。
1) 同じ基礎治療にボルテゾミブを併用するかしないかの比較試験、2) ボルテゾミブを含む新規レジメンと、それとは異なる基礎治療の比較試験、同じ基礎治療にボルテゾミブを併用するか別の薬剤を併用するかの比較試験、またはボルテゾミブ単剤と他の基礎治療単剤との比較試験、3) ボルテゾミブの用量比較および、さまざまな投与方法と投与スケジュールを比較したRCTを組み入れた。
レビュー著者2名が独立してアウトカムデータを抽出し、バイアスのリスクを評価した。 OSとPFSそれぞれのハザード比(HR)とその信頼区間、および奏効率、AE、TRDのオッズ比(OR)を抽出した。欠損データについて試験報告著者に連絡を取り、要約統計量を提供してもらった。入手できなければ、ログランク統計量を推定した。可能な場合には、HRQoLデータを抽出した。
3,667の記録をスクリーニングし、5,626例が参加した16件の関連のRCTを特定し、このうち12件についてメタ解析を実施した。 臨床試験は全てランダム化非盲検試験であった。 このうち2件については抄録形式で公表されたため、バイアスの潜在リスクを完全には評価できなかった。
同じ基礎治療にボルテゾミブを併用するかしないかの比較試験の解析から、ボルテゾミブがOS(4試験、1,586例:Peto法を用いたOR 0.77, 95% CI 0.65 – 0.92)およびPFS(5試験、1,855例:Peto OR 0.65, 95% CI 0.57 – 0.74)を延長したとの中等度の質のエビデンスが得られている。
ボルテゾミブを含む新規レジメンと、それとは異なる基礎治療の比較試験、同じ基礎治療にボルテゾミブを併用するか別の薬剤を併用するかの比較試験、またはボルテゾミブ単剤と他の基礎治療単剤との比較試験の解析から、ボルテゾミブはOS(5試験、2,532例:Peto法を用いたOR 0.76, 95% CI 0.67 – 0.88)の延長に関しては質の高いエビデンスが得られているが、PFS(4試験、2,489例:Peto法を用いたOR 0.67, 95% CI 0.61 – 0.75)の延長は、エビデンスの質が低かった。
4件の試験(N = 716)では、異なる投与量、投与方法、治療スケジュールが検討されており、定性的レビューのみを行なった。
進行までの期間(TTP)を評価した4件をメタ解析で特定し、そのうちの3件でPFSデータの抽出と解析が可能であった。他の1件は、PFSデータが入手可能でなかったことからTTPを使用した。したがって、本レビューにおいては、TTPの別途の解析は行なわなかった。
ボルテゾミブによる治療を受けた患者は、血小板減少症、好中球減少症、消化管毒性、末梢神経障害、感染症、疲労のリスクが高いが、エビデンスの質はかなり多様である。 ボルテゾミブを含む新規レジメンと、それとは異なる基礎治療を使用する比較試験、同じ基礎治療にボルテゾミブを併用するか別の薬剤を併用するかの比較試験、または ボルテゾミブ単剤と他の基礎治療単剤との比較試験の解析から、心疾患が高リスクであることの質の高いエビデンスが得られている。 解析を行なったいずれの比較群のTRDリスクもエビデンスの質は低く、不確かなものである。
HRQoLを解析したのは4件のみであり、データのメタアナリシスは行なえなかった。
疾患別のサブグループ解析により全アウトカムが改善したことが明らかになった一方で、治療別では、地固め療法後のOSを除き、全アウトカムおよびサブグループにおいてボルテゾミブによる有益性の改善が観察された。
《実施組織》一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)『海外癌医療情報リファレンス』(https://www.cancerit.jp/ )宮武洋子 翻訳、吉原哲(兵庫医科大学病院、輸血・細胞治療科)監訳[2016.08.10]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公 開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン日本支部までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD010816》