抗コリン作用のある薬が将来の記憶や思考の問題に与える影響について

本レビューの目的

薬は、コリン作動性システムと呼ばれる体内の化学的シグナル伝達システムの作用を遮断する能力によって分類される。コリン作動性システムの作用を遮断する作用を持つ薬は、抗コリン作用を持つと言われている。抗コリン薬の効果を数値化するために様々な評価尺度がある。ある人が服用しているすべての抗コリン薬によって引き起こされる全体的な抗コリン作用を「抗コリン負荷」と呼ぶ。

記憶や思考に問題のない高齢者が抗コリン薬を処方された場合、処方されていない人に比べて認知症になりやすいかどうかを調べることを目的とした。

尺度によって薬の評価方法が異なるため、抗コリン負荷の評価は使用する尺度によって異なる。そのため、特定の抗コリン負荷測定尺度が、他の尺度よりも認知症リスクの増加と強く関連しているかどうかも知りたいと考えた。

要点

抗コリン薬の使用と将来の認知症リスクには関連があるかもしれない。しかし、発表されたエビデンスには限界があり、認知症の原因が抗コリン薬そのものにあるのか、それとも他の要因にあるのかを明確に言うことはできない。様々な抗コリン剤の測定ツールを比較するには、研究数が少なすぎた。

本レビューで検討された内容

世界には4,000万人以上の認知症の高齢者がいる。この数は2050年には1億人以上になると予想されているが、現在のところ治療法は非常に限られている。そのため、認知症のリスクを高める要因を明らかにすることが重要となる。

脳内のコリン系は学習や記憶に重要な役割を果たしているため、抗コリン作用のある薬が将来的に認知症を引き起こす可能性があるという理論的な理由がある。これらの薬は、記憶や思考に意図しない影響を与え、認知症を引き起こす可能性があるという研究結果がある。もしそうだとすれば、認知症を発症する高齢者の数を減らすためには、これらの薬を処方しないようにするのも一つの方法かもしれない。花粉症の薬、不眠症の薬(寝つきが悪い、寝てもスッキリしない)、うつ病の薬など、よく使われる薬の多くは抗コリン作用を持っている。

このレビューでは、様々な測定尺度で測定された抗コリン薬と将来の認知症との関連性を調べた。

本レビューの主な結果

50歳以上の968,428人を対象とした25件の研究が見つかった。比較的多くの研究があるにもかかわらず、デザインや手法の違いから、いくつかの研究を組み合わせて分析することしかできなかった。抗コリン薬の使用と将来の認知症のリスクには一貫した関連性があることがわかった。これらの薬が因果関係にあるかどうかはわからないが、もし因果関係があるとすれば、これらの薬を服用することで認知症のリスクが2倍になる可能性がある。

利用可能な抗コリン剤の測定尺度のうち、一般的に使用されているツールである「抗コリン剤の認知的負担尺度」を評価することができた。 この尺度で抗コリン負荷が高いと判断された場合、将来の認知症のリスクは、抗コリン負荷がない人に比べて2倍以上になった。

このレビューに含まれるエビデンスは全体的に質が低く、抗コリン薬と認知症との関連性の強さを誇張している可能性がある。例えば、認知症の初期症状に対して、抗コリン薬が処方されることがある。これは強い関連性があることを示しているが、薬が記憶障害の原因であることを示唆するものではない。同様に、抗コリン薬と将来の認知症との関連性が示された場合にのみ研究が発表される危険性もある。抗コリン薬が将来の認知症と関連しているかどうかを真に立証するには、抗コリン薬の服用を中止したり、代替薬に変更したりする人と、通常の薬を服用し続ける人を対象とした研究を行うしかないのかもしれない。

本レビューの更新状況

2021年3月24日までに発表された研究を検索した。

訳注: 

《実施組織》 阪野正大、冨成麻帆 翻訳[2021.05.11]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD013540.pub2》

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