過敏性腸症候群の治療には薬草製剤が多く用いられている。東洋では中薬(中医学の薬草療法)が一般的に使用されており、いくつかの臨床試験で薬草製剤が過敏性腸症候群の症状に有効であることが示されている。本システマティックレビューでは、過敏性腸症候群患者の治療に対するさまざまな薬草製剤(単一の薬草または複数の薬草を混合)の効果を評価した75件のランダム化臨床試験を同定し、組み入れた。本レビューでは一部の薬草製剤が腹痛、下痢、便秘などの総合的な症状を改善することを示している。しかし、これらの薬草を評価した臨床試験は概して方法の質が低かった。有望な結果を示す小規模で質の低い試験では、効果が誇張されている可能性が高いことを示唆するエビデンスが得られている。対象試験では薬草製剤による重篤な有害作用は報告されていないが、薬草製剤の安全性を決定するには、さらに研究が必要である。結論として、薬草製剤は過敏性腸症候群の治療に有効である可能性がある。しかし、過敏性腸症候群に薬草製剤のルーチン使用を推奨するには時期尚早である。薬草の使用に関する健全なエビデンスを得るためには、より大規模で適切にデザインされた試験を実施する必要がある。
一部の薬草製剤は過敏性腸症候群の症状を改善する可能性がある。しかし、厳格性に乏しい試験から有効性を示す結果が得られた場合は、方法が適切ではない、サンプルサイズが小さい、または裏付けとなるデータが不足している場合があるため、慎重に解釈すべきである。一部の薬草製剤は、質の高い試験でさらに検討する必要がある。
過敏性腸症候群などの胃腸障害の治療には伝統的な薬草療法が長年用いられており、臨床研究のエビデンスで示された有効性に関して系統的なレビューを行う 必要がある。
過敏性腸症候群の患者に対する薬草製剤の有効性および安全性を評価すること。
以下の電子データベースを2004年7月まで検索した:The Cochrane Library (CENTRAL)、MEDLINE、EMBASE、AMED、LILACS、 Chinese Biomedical Database。2003年末日までの中国の学術雑誌および学会抄録集のハンドサーチを併用した。言語による制約は設けなかった。
薬草製剤を無治療、プラセボ、薬理学的介入と比較したランダム化比較試験を組み入れた。
2名の著者がそれぞれデータを抽出した。ランダム化の内容、割付の隠蔽化(コンシールメント)、二重盲検化、ランダム化した参加者の組入れを用いて、試験の方法の質を評価した。
過敏性腸症候群患者7957名が参加した75件のランダム化試験が選択基準を満たした。3件の二重盲検プラセボ対照試験は方法の質が高かったが、残りの試験の質は概して低かった。対象試験では71種類の薬草製剤をプラセボまたは従来の薬物療法と比較した。薬草製剤と従来法を併用し、従来法のみの場合と比較した試験もあった。
標準化された中薬(中医学の薬草療法)の処方、個別に処方された中薬、STW 5およびSTW 5-II、チベットの薬草製剤Padma Lax、伝統的な中薬の処方Tongxie Yaofangならびにアーユルヴェーダ製剤は、プラセボと比較して総合的な症状に対する顕著な改善効果が認められた。51種類の薬草製剤を従来法と比較検討した65件の試験のうち、22種類の薬草製剤では統計学的に有意な症状改善が認められ、29種類の薬草製剤では従来法と比較して有意差は認められなかった。薬草製剤と従来法の併用を評価した9件の試験のうち6種類の薬草製剤では、従来法単独の場合と比較して併用療法の方が有益であることが示された。薬草製剤による重篤な有害事象は報告されなかった。
《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2018.2.1]
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