横紋筋肉腫を除く軟部肉腫に対する大量化学療法後の自家造血幹細胞移植

レビューの論点

横紋筋肉腫を除く軟部肉腫患者における大量化学療法(癌を殺すための薬剤)後の自家造血幹細胞移植と標準用量化学療法の全生存(癌と診断されてから、または治療を開始してからあらゆる原因による死亡までの期間)を比較したエビデンスについて精査した。両治療法を比較した1件のランダム化比較試験(RCT、2つ以上の治療群のうちの1つに患者を無作為に割り当てる臨床試験)を特定した。

背景

横紋筋肉腫を除く軟部肉腫は、希少がんの一種である。手術不能(手術中に取り除くことができない)または転移のある(癌が体の他の部分に拡がっている状態)患者は、予後(転帰)が不良である。大量化学療法は患者の生存を改善する可能性があると考えられていたが、骨髄での血液細胞の産生が止まり、有害となることがある。血球数が減少しすぎた場合は、大量化学療法の前に患者から採取した幹細胞(さまざまな種類の細胞になることができる細胞)をその患者自身に戻すことができる。これを自家造血幹細胞移植という。研究の数が少ないため、このような治療を受けた患者が標準的な化学療法を受けた患者より長く生存することは証明されていない。そこで、大量化学療法後の自家造血幹細胞移植が標準用量化学療法より効果があるのかどうかを評価することを目的とした。

試験の特性

本エビデンスは2016年9月6日現在のものである。大量化学療法と移植を行った群38例と化学療法のみの群45例を比較した1件のRCTを特定した。バイアスのリスクは概ね低いと判断した(適切にデザインされたものであったため)。参加者は、さまざまなタイプの軟部肉腫(横紋筋肉腫を除く)を有する18~65歳で、約55カ月間観察した。治療期間は、2000年~2008年であった。この1件のRCTは非営利団体(試験が良好な結果になった場合でも資金提供者は利益を得ない)から資金提供を受けていた。

主な結果

RCTの結果から、全生存についてはどちらの治療群にも優越性は示されなかった。治療関連死は、移植群で1例認めたが、化学療法のみの群では認められなかった。重度の非血液学的(血液とは関連がない)副作用は移植群で8例、化学療法のみの群で1例認められた。

エビデンスの質

データの全体的な質は 、1件のRCTのみに基づいており、不明であった。現在のところ、研究のエビデンスは、横紋筋肉腫を除く軟部肉腫患者に対する大量化学療法後の自家造血幹細胞移植の使用に限定されている。適切に計画された臨床試験によるエビデンスがさらに必要である。

著者の結論: 

バイアスのリスクが不明でエビデンスの質が中等度から高い1件のRCTからの限定的なデータでは、大量化学療法による生存率に対する有用性は認められなかった。この治療法は、患者個人の状態を慎重に考慮した場合にのみ、おそらくは、適切にデザインされたRCTの一環としてのみ行うべきである。

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背景: 

軟部肉腫は、きわめて不均一でまれな悪性固形腫瘍の一種である。横紋筋肉腫を除く軟部肉腫(NRSTS)には、横紋筋肉腫以外のすべての軟部肉腫が含まれる。局所で進行している患者または転移のある患者において、大量化学療法後の自家造血幹細胞移植は、大量化学療法に関連した重度の血液毒性に対して計画される救援治療である。今回の更新目的は、ランダム化比較試験(RCT)が行われたかを調査し、大量化学療法後の自家造血幹細胞移植に延命効果があるかどうかを明確にすることである。

目的: 

小児および成人における全ステージの横紋筋肉腫を除く軟部肉腫に対する大量化学療法後の自家造血幹細胞移植の有効性と安全性を評価すること。

検索戦略: 

今回の更新では、精度を高め無関係なヒット数を減らすため、検索戦略を見直した。検索は以下の電子データベースを対象に行った。Cochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL; 2016, 8号)、2012年~2016年9月6日のPubMed、2012年~2016年9月26日のEmbase、2012年~2016年9月26日のオンライン試験登録および学会抄録集。

選択基準: 

軟部肉腫と自家造血幹細胞移植を表す用語が、標題またはアブストラクトに含まれていることを必須とした。試験デザインはRCTに限定した。参加者の80%以上の診断が、世界保健機関(WHO)分類のいずれかの版に記載され、悪性と分類されているものである試験を対象とした。検索は小児および成人を対象とし、年齢制限は設けなかった。

データ収集と分析: 

Cochraneで求められる標準的な手法を用いた。主要アウトカムは全生存率と治療関連死亡率とした。

主な結果: 

特定した1,549件の記録の内訳は、電子データベース85件、試験登録45件、学会抄録集1,419件であった。検索戦略の見直しを行ったが、新たなRCTは確認されなかった。本レビューの旧版では、大量化学療法後の自家造血幹細胞移植と標準用量化学療法を比較した1件のRCTが確認されていた。この試験は、19の異なる腫瘍型を有するという点で非常に不均一な87例を無作為化したものである。このうち83例のデータを解析対象とした。

レビュー対象とした1件の試験において、3年全生存率は、大量化学療法群で32.7%であったのに対し、標準用量化学療法群では49.4%であった。治療群間での差は認められなかった[ハザード比(HR)1.26、95%信頼区間(CI)0.70~2.29、p = 0.44、1試験、参加者83例、エビデンスの質は高い]。大量化学療法前に完全奏効が認められたサブグループでは、両治療群ともに全生存率が高かった。3年全生存率は大量化学療法群で42.8%であったのに対し、標準用量化学療法群では83.9%と標準用量化学療法群の方が優れていた(HR 2.92、95% CI 1.1~7.6、p = 0.028、1試験、参加者39例)。

レビュー対象とした1件の試験で、著者らは大量化学療法の2年後に治療に関連した白血病で1例が死亡したと報告した。また、著者らは大量化学療法群の22例および標準用量化学療法群の51例におけるWHOグレード3~4の重度の有害事象についても検討した。大量化学療法群にみられた消化管、感染症、疼痛、無力症に関連した毒性のイベント11件と、標準用量化学療法群にみられたイベント1件が報告された(エビデンスの質は中等度)。二次がんの発症は報告されていなかった。この試験のバイアスのリスクは、7項目のうち3項目が不明で、4項目では低いため、全体としてのバイアスのリスクは不明と判断した。GRADEについては、3項目は質が高いと判断し、3項目については報告されていなかった。

訳注: 

《実施組織》一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)『海外癌医療情報リファレンス』(https://www.cancerit.jp/)成宮眞由美 翻訳、遠藤誠(九州大学病院、整形外科)監訳 [2017.7.9] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD008216》

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