レビューの論点
鎌状赤血球症患者における下腿潰瘍を治療するための介入の有効性および有害性に関する科学的根拠(エビデンス)をレビューした。本レビューは以前報告されたコクランレビューのアップデート版である。
背景
下腿潰瘍は、鎌状赤血球病患者にとって慢性の合併症である。潰瘍は、上手く治療することが難しい傾向があり、数カ月から数年かけてゆっくりと治癒が進む。潰瘍によって、生活の質に著しく支障をきたし、不自由さが増し、長期間の欠勤を余儀なくさせ、医療システムに大きな負担をかける。鎌状赤血球症患者における下腿潰瘍を治療するための介入
検索日
本エビデンスは、2020年1月13日現在のものである。
研究の特性
今回のアップデートされたコクランレビューでは、250カ所の潰瘍を有する198例の参加者を対象としたランダム化比較試験を6件同定した。4件のランダム化比較試験はジャマイカ、2件は米国で行われた。これらの試験では、潰瘍に直接用いる薬剤やドレッシング材(局所性薬剤・外用薬)および経口または静脈投与される薬剤(全身性薬剤)を検証した。これらの2種類では作用機序が大きく異なることから、レビューではそれらを別々に取り扱った。局所性薬剤としては、Solcoseryl®(ソルコセリル)クリーム、RGDペプチドドレッシング材、局所抗生剤が用いられた。Solcoseryl®は、皮膚組織による酸素の取り込みを改善することによって、傷の治りを促すことを目的としている。また、局所抗生剤は感染を予防するために使用される。RDGペプチド・マトリックスは、細胞増殖を促すゲルである。全身性薬剤としては、L‐カルニチン、酪酸アルギニン、イソクスプリンが用いられた。酪酸アルギニンは静脈内投与すると、傷の治りを促すと考えられており、L‐カルニチンは経口投与すると、組織の低酸素状態を改善すると考えられており、イソクスプリンは塩酸イソクスプリンとして経口投与すると、傷への血流を増加させると考えられている。
主要な結果
エビデンスの質が非常に低かったことから、評価された医薬的介入のいずれかが潰瘍の大きさを減少させたり、下腿潰瘍の閉鎖につながるかどうかは明らかにされていない。対象となった試験の中には、我々が関心を寄せる他のアウトカム、すなわち、潰瘍が完全に治癒するまでの時間、鎌状赤血球下腿潰瘍の治療後の無潰瘍生存率、生活の質の評価、切断の発生率、有害性について報告したものはなかった。
エビデンスの質
鎌状赤血球症と慢性下腿潰瘍の人を治療するための介入の使用については、非常に限られたエビデンスしかない。本レビューで組入れたすべてのランダム化比較試験では、バイアスのリスクは不明または高く、質は非常に低いエビデンスであると評価した。このシステマティック・レビューから、鎌状赤血球病患者の下腿潰瘍の治癒を改善するための介入の有益性や有害性を評価するには、十分にデザインされた質の高いランダム化試験が必要であることが示された。
《実施組織》 厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2021.11.12] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD008394.pub4》