ソーシャルスキルプログラム(SSP)は、感情や要望を相手に伝えることを教えるために行動療法や行動的技法を用いる。これによって、対象者が他人とうまくやっていったり社会的な調整をしたり出来るようになり、自身の目標を達成したり、人間関係や自立した生活に関するニーズを満たしたりしやすくなることを目的としている。ソーシャルスキルプログラムには、様々な「細かい」スキル(アイコンタクト、流暢な話し方、身振り手振り)、および「大きな」スキル(ネガティブな感情への対処、物事へのポジティブな反応)を向上させるために導入された「モデル学習(ロールプレイ)」が含まれる。ソーシャルスキルプログラムは統合失調症を持つ人々の社会的パフォーマンスを高め、経験される苦痛や困難を軽減する。ソーシャルスキルプログラムは統合失調症を持つ人々のためのリハビリテーションの一部として組み込まれることがある。
このレビューの主な目的は、統合失調症を持つ人々に対するソーシャルスキルプログラムの効果を、標準的ケアまたはグループディスカッションと比較して調査することである。2006年と2011年に行われた検索に基づき、このレビューには合計975人が参加した13件の試験が組み入れられた。著者らは注目する7つの主要なアウトカムを選び、これらのアウトカムに関するデータはすべて非常に低い質であると評価された。社会的機能についてのすべての評価項目で、標準的ケアと比較してソーシャルスキルプログラムを支持する有意な差があった。再発率は標準的ケアと比較してソーシャルスキルの方が低く、精神状態についてもソーシャルスキルを支持する有意な差があった。生活の質(QOL)も標準的ケアに比べてソーシャルスキルプログラムの方が改善された。しかし、ソーシャルスキルプログラムをグループディスカッションと比較すると、社会的機能、再発率、精神状態、QOLに有意な差は見られなかった。
標準的ケアと比較して、ソーシャルスキルプログラムは統合失調症を持つ人々の社会的技能を向上させ、再発率を低下させる可能性がある。ただし非常に低い質のデータしか使用できず、現時点のエビデンスは非常に限られたものである。報告されたほとんどの研究は中国で実施されていたため、文化の違いにより現在の結果の妥当性が制限される可能性がある。ソーシャルスキルプログラムまたはトレーニングが様々な環境で統合失調症を持つ人々の社会的機能を改善できるかどうかは依然不明であり、大規模な多施設ランダム化比較試験でさらに調査するべきである。
Ben Gray,シニアピアリサーチャー、McPin財団http://mcpin.org/
《実施組織》 翻訳 五十嵐百花 監訳 渡辺範雄 (コクランジャパン) [2020.2.18]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所地域・司法精神医療研究部(以下、NCNP精研地域部)までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。NCNP精研地域部では最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD009006.pub2》