背景
管理者は、従業員の労働条件を整え、その健康とウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に良好な状態)を促進するために重要な役割を果たしていると考えられている。研修プログラムは、従業員の健康とウェルビーイングを向上する管理者のスキルを高めるために、広く用いられている。
レビューの論点
4種類の管理者むけ研修について、従業員のストレス、欠勤、精神的ウェルビーイング(精神的健康)に対する効果を調べた。管理者と従業員の相互交流を高めることを目的とした、職場外での研修(off-the-job)あるいは職場内での研修(on-the-job)の効果について評価を行なった。さらに、管理者の職場環境を整える能力を高めることを目的とした、職場外の研修(off-the-job)あるいは職場での研修(on-the-job)についても評価を行なった。
研究の特性
25件の研究が含まれ、そのうち4件は評価待ちである。分析することのできた21件の研究には、合計3479人の従業員が含まれていた。16件の研究では、管理者と従業員の相互交流に関する研修を行なっており、職場外での研修は9研究、職場内での研修は7研究であった。5件の研究では、職場環境を整えるための研修を行なっており、2件が職場外での研修、3件が職場内での研修であった。21件の研究では、合計23の介入(研修)を、研修なし、偽(プラセボ)研修、またはその他の研修と比較しており、フォローアップの時期は様々であった。
主な結果
管理者に対する研修が、従業員のストレス(6研究)や欠勤(1研究)に及ぼす効果は、研修なしと比べて大きな影響は見られなかった。管理者研修が研修なしに比べて従業員のウェルビーイングを向上させる可能性を示した研究は2件、向上させない可能性を示した研究は7件あり、一貫したエビデンスは得られなかった。2件の研究ではデータが得られなかったため、従業員のウェルビーイングに対する研修の効果を計算することができなかった。
管理者研修を偽(プラセボ)研修と比較した場合、従業員のストレス(2研究)や欠勤(1研究)に対する効果は見られなかった。1件の研究でデータが得られなかったため、従業員のウェルビーイングに対する研修の効果を計算することはできなかった。
1つの研究では、管理者研修を従業員のストレスを軽減するための他の研修と比較していたが、効果を計算するための十分なデータは得られなかった。
エビデンスの質
研究におけるバイアスのリスクや一貫性のない結果、不正確な効果のため、ほとんどのアウトカム(結果)に関してエビデンスの質は非常に低かった。研究者は本レビューに含まれた研究の欠点を考慮して、今後はよりよくデザインされた研究を行い、適切に報告することが求められる。
結論
全体として、今回のデータからは、管理者研修が従業員のストレスや欠勤を減らし、ウェルビーイングを高めることには繋がらないことが示唆された。明確な科学的コンセンサスと経験的なエビデンスが一致しないのは、研究デザインの弱さによるものと考えられる。管理者研修が、従業員のストレス、欠勤、ウェルビーイングに影響を与えるかどうかを明らかにするためには、質の高い研究が必要である。
《実施組織》瀬戸屋希 翻訳、阪野正大 監訳[2020.7.29]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD010905.pub2》