レビューの論点
鎌状赤血球症(sickle cell disease:SDL)の患者に対して、葉酸補充療法(食物の中に天然に存在する葉酸として、栄養強化食品または錠剤のようなサプリメントで補充する)がどの程度有効で安全か評価が必要である。
背景
鎌状赤血球症(sickle cell disease :SCD)はヘモグロビン(全身の細胞に酸素を運ぶ赤血球内の分子)に影響する疾患群の1つで、赤血球が歪んだ鎌状や三日月形状になる。血液が十分体中に酸素を運搬できない貧血、反復感染および疼痛発作が特徴である。SCDはもともと熱帯や亜熱帯で見られていたが、人々の移住により今や世界中に広まった。SCDの管理には広く用いられている3つの予防法があり、これにはペニシリン、肺炎球菌感染予防、そして葉酸補充が含まれる。葉酸は赤血球生成に必要な水溶性ビタミンBである。SCD患者に赤血球生成の亢進があることを考慮すると、サプリメントや食事により葉酸摂取を増やすことが必要かもしれないと考えられる。しかし、エビデンスに基づく研究が不足しているため、補充療法の有益性が有害作用の可能性のリスクを上回るかどうか依然として明らかにされていない。
検索期間
このエビデンスは、2017年11月17日現在のものである。
試験の特性
6カ月から4歳までの117例の小児SCD患者が参加した1件の試験を組み入れた。これは、葉酸サプリメントを摂取した小児を、プラセボを摂取した小児と比較した1年間にわたる二重盲検比較対照試験であった。参加者も医師も参加者がどの治療群に割付けられたかを知らされていなかった。
主要な結果
この試験の治験責任医師らは、葉酸補充が血液中で測定された葉酸値の上昇を引き起こしたと報告した。しかし、1年の終わりの時点でヘモグロビン濃度に差はなかった。
この試験は、例えば成長、重大および軽度の感染症、急性脾臓血液貯留、骨や腹部の疼痛発作などのような治療に関連した臨床学的因子についても報告した。治験責任医師らによって、ベースライン時からこの試験の終了時点までアウトカムの差は報告されなかった;しかし、この試験は十分な規模ではなかったため、報告では葉酸群とプラセボ群との間の可能性のあるいかなる差も検出できなかった。
エビデンスの質
組み入れられた試験において、参加者が葉酸またはプラセボを摂取するようどのように割付けられたかは不明瞭であった。参加者と試験スタッフが個々の患者がどの治療を受けたのかを知らされていなかったこと(いわゆる割付けの隠蔽)を確かめる方法が記載されていなかった。これらの2つの因子は、この試験ではバイアスのある結果であるリスクが大きいことを意味している。
この試験では参加者が多くなかった。臨床エンドポイントの多くは、この試験が葉酸を摂取した患者とプラセボを摂取した患者との間の差を示すためにデザインされたものではなかった。このことは、この試験から得られた結果が不正確で、そのため解釈することが困難であることを意味する。
最後に、我々のレビューは小児と成人の葉酸補充 (食物の中に天然に存在する葉酸として、栄養強化食品または錠剤のようなサプリメントで補充)について検討することを意図している。小児における補充の一つの形を検討した1件の試験を確認したにすぎないため、この結果は他の患者集団には有用ではない。
したがって、組み入れられた試験から得られたエビデンスは質が低いと判断した。葉酸補充が血中葉酸値を上げるということを示すためのエビデンスが得られたにすぎない1件の質の低い試験に基づいて、その治療が有効であるか否かを明確に示すことはできない。
このレビューを補強するためには、より多くの参加者と長い治療期間(および追跡調査)でSCD患者に対する葉酸補充をさらに試験することが必要である。しかし、この介入の試験が今後さらに実施されるとは想定しておらず、したがって本レビューは今後定期的に更新される予定はない。
《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2018.12.25] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 【CD011130.pub3】