レビューの論点
このレビューの主な目的は、胚移植の時期に精漿を女性の性器に投与することで、生殖補助技術(ART)周期における生児出産率が向上するかどうかを評価することである。精漿は射精液の液体成分であり、女性性器は腟、子宮頸部、子宮を指す。
背景
ART周期では、卵子と精子を体外で一緒にし、受精させて胚をつくる。1~2個の胚を、ごく少量の培養液に入れて子宮内に移植する。この処置においては、男性パートナーが腟内で射精する通常の性交とは異なり、女性の体は精液に触れることがない。精漿には、胚が子宮に着床するのを助ける分子がいくつか含まれていることが示唆されている。理にかなった疑問として、子宮内や子宮頸部、腟に精漿を投与することで、ARTによる生児出産率を高められるかどうかが問われている。
研究の特性
このコクランレビューには、11のランダム化比較試験が含まれており、女性は精漿の投与を受けるか受けないかに無作為に割り付けられていた。これらの試験には、合計3215人のARTを受けた女性が含まれていた。エビデンスは2017年10月現在のものである。
主要な結果
精漿の投与がARTを受けている女性の出生率や流産率に影響を与えるかどうかを示唆する明確なエビデンスは見出されなかった。しかし、精漿の投与によって標準的なARTよりも臨床的妊娠率を上げる可能性があることを示唆する質の低いエビデンスが存在した。質の低いエビデンスによると、多胎妊娠率は群間でほとんど、あるいは全く差がなかった。異所性妊娠(胚が子宮外に着床する妊娠)のリスクについて結論を出すには十分なエビデンスがなく、感染性合併症やその他の有害事象についてのデータは存在しなかった。
精漿の投与は、出生率と流産率に焦点を当てて、さらに検討される価値があると結論づけた。
エビデンスの質
エビデンスの質は非常に低度~低度であった。主な限界は、バイアスのリスク(研究方法に関する報告が不十分であることに関連)と主要なアウトカムである出生率のデータが不足していたことによる。
《実施組織》杉山伸子 小林絵里子 翻訳[2020.11.24]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD011809.pub2》