レビューの論点
鍼治療は成人の慢性神経障害性疼痛の治療において安全で効果的であるか。
背景
神経障害性疼痛は神経損傷が原因の複合的な慢性疼痛である。損傷した組織(例えば転倒、切り傷、膝関節炎など)から健康な神経へ伝達された痛みのメッセージとは異なる。およそ7~10%の一般集団が神経障害性疼痛を認める。鍼治療は、皮膚やその下の組織に鍼を刺入し疾患を治療する中国伝統医学(traditional Chinese medicine:TCM)のテクニックの一つである。
本レビューでは、成人の神経障害性疼痛の治療において、鍼治療は痛みを緩和するか、生活の質を改善するか、そして他の治療法よりも副作用が少ないかどうかに興味を持った。鍼治療と偽鍼(偽鍼は、皮膚やその下の組織に貫通させるのではなく、用いる平な鍼は鍼柄の中にはまり込むようになっている)とを比較した研究を検索した。また、鍼治療と通常の治療または他の薬物治療(メコバラミン、ニモジピン、イノシトール、消渇痺痛丸など)を比較した研究も検索した。
試験の特性
2017年2月に関連する臨床試験の調査を行った。6件の手で行う鍼治療(1件は鍼治療と偽鍼、3件は鍼治療と薬物治療の併用と薬物治療単独とを比較、2件は鍼治療単独と薬物治療単独とを比較)を対象とした。6件の研究は、慢性の末梢神経障害性疼痛の成人462人を対象とした。参加者は平均52~63歳であった。彼らは8週間以上の治療を受けた。鍼治療と通常の治療とを比較した研究、またはその他の鍼治療(例えば電気鍼、温鍼、火鍼など)の研究は見られなかった。
主な結果およびエビデンスの質
偽鍼または他の治療(メコバラミン、ニモジピン、イノシトール、消渇痺痛丸など)と比較して、痛みの程度、痛みの軽減、生活の質に対する手で行う鍼治療による有益な効果は、不明確であった。鍼治療の害(副作用)の可能性に関するエビデンスは欠如していた。
複数の試験から得られたエビデンスの質を、「非常に低い」、「低い」、「中等度」および「高い」の4段階を用いて評価した。非常に低い質のエビデンスとは、結果について非常に不確かであることを意味する。高い質のエビデンスとは、結果について非常に確信が持てることを意味する。(治療が参加者に対して盲検的ではなく、より多くの偽鍼群の参加者が試験を脱落したなど)研究方法に問題が多いので、本レビューにおけるエビデンスの質は非常に低かった。研究は、参加者が少ないものも含まれていた。さらに、これらの知見は高齢者の末梢神経障害性疼痛のみにあてはまる。
総じて、神経障害性疼痛の治療に対する鍼治療の使用に関して支持または否定する十分なエビデンスは得られなかった。
《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2018.12.25] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 【CD012057.pub2】