論点
急性期脳卒中患者において、飲食物が気道に入ることを検出する嚥下(飲み込み)スクリーニング検査の精度はどの程度なのか?
背景
脳卒中は嚥下機能に影響を与えることがよくあり、そのため、飲食物が気道に入ってしまうことがある。これにより窒息、肺の感染、低栄養、脱水、リハビリテーション時間の減少につながり、不安、抑うつ、介護施設への退院や死亡のリスクが高まる。最も精度の高い検査によって嚥下障害を早期に発見し、管理することで、これらのリスクを減少させることができる。検査で嚥下の問題を検出できなかった場合、その人は経口摂取を継続するが、上記に記載したような問題が生じる可能性がある。検査で嚥下に問題があると誤って判断された場合、より詳細な評価が実施されるまでに(通常は翌日)、食べることや飲むことを禁止される可能性があり、QOL(生活の質)に重大な影響を与える。
研究の特性
合計37個の検査を使用した25件の研究を特定した。7個の検査は水またはその他の物性を使用しない検査であり、24個の検査は水のみを使用し、6個の検査は水とその他の物性を使用したものであった。
主要な結果
飲食物が気道に入った人を正確に判別し、確実に気道に入らなかった人を全員検出する検査は無かった。多くの研究では、検査する医療従事者、検査に使用する食物や水分の物性、脳卒中発症からスクリーニング検査までの時間等が異なっており、どの検査が一番良いのかは不明である。多くの研究が異なる手法を用いていたため、それぞれの検査を直接比較することができなかった。
質の高いエビデンスの研究により、嚥下障害のリスクがある人とない人を最も的確に検出できる検査を特定することができた。水の嚥下と機器を組み合わせた検査で最も優れていたのは、ベッドサイド誤嚥テスト(Bedside Aspiration test)、水と他の物性を用いる検査で最も優れていたのはグギング嚥下スクリーニング検査(Gugging Swallowing Screen:GUSS)、水だけを使用する検査で最も優れていたのはトロントベッドサイド嚥下スクリーニングテスト(Toronto Bedside Swallowing Screening Test :TOR-BSST)であった。しかし、これらの試験はサンプルサイズ(研究の規模)の小さい単一の研究に基づいているため、臨床家はこれらの知見の解釈に慎重にあるべきである。
エビデンスの質
このレビューに含まれたほとんどの研究は、実施が不十分であったり、実施内容の報告が不十分(つまり、バイアスのリスクが不明瞭または高い)であった。
結論
高い精度と質の高いエビデンスを兼ね備えた単一の検査を見つけることはできなかった。しかし、嚥下スクリーニング検査の正確性と臨床的有用性を向上させるために、さらなる質の高い研究を実施することを推奨する。
《実施組織》 久保田純平 翻訳、堺琴美 監訳 [2021.11.16] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD012679.pub2》