レビューの論点
外側の肘や膝の腱炎に対する深部横断摩擦マッサージ(DTFM)の有効性に関するレビューを更新した。57人が参加した2件の試験(この更新では新たな試験の追加はなし)を選択した。
背景
腱炎および深部横断摩擦マッサージとは 腱は筋肉を骨に付着させる線維性の組織である。腱炎は、基本的に、腱が炎症(痛みのある腫れ)を起こしたときに発症する。炎症は、同じ動作の繰り返しで腱にストレスがかかりすぎることによって生じる。これが、肘や膝などの関節の痛みや凝りの原因となる。
深部横断摩擦マッサージ(DTFM)は理学療法の手技のひとつであり、炎症からくる損傷や傷を減らすためにしばしば用いられる。関節の血流が増加して傷の部分に運ばれる酸素の供給が増えるため、腱の回復をもたらす。
研究の特性
5週間にわたって実施された試験では、(1)肘外側腱炎(テニス肘)の人20人を対象に、深部横断摩擦マッサージを超音波治療とプラセボ軟膏と併用した場合と、超音波治療とプラセボ軟膏で治療した場合を比較、また(2)肘外側腱炎(テニス肘)の人20人を対象に、深部横断摩擦マッサージとフォノフォレシスを併用した治療法をフォノフォレシスだけを用いた治療法と比較して、深部横断摩擦マッサージの効果を調査した。もうひとつの2週間の試験では、膝外側靭帯炎の人17人を登録し、深部横断摩擦マッサージと理学療法を併用した場合と、理学療法のみの場合とを比較して、深部横断摩擦マッサージの効果を調査した。
主な結果
肘外側腱炎(テニス肘)の人に対する深部横断摩擦マッサージの効果
・深部横断摩擦マッサージによって痛みや機能が改善するかどうかは不明である(エビデンスの質が非常に低いため)。
・30%以上の痛みの緩和効果、生活の質、患者の総合評価、有害事象および有害事象による中止については、報告がなかった。
副作用や合併症について、多くの場合、詳細な情報を得ることができなかった。稀ではあっても重篤な副作用では特に情報が不足していた。
膝外側靭帯炎の人に対する深部横断摩擦マッサージの効果
・深部横断摩擦マッサージによって痛みが改善するかどうかは不明である(エビデンスの質が非常に低いため)。
・30%以上の痛みの緩和効果、機能、生活の質、患者の総合評価、有害事象および有害事象による中止については、報告がなかった。
副作用や合併症について、多くの場合、詳細な情報を得ることができなかった。稀ではあっても重篤な副作用では特に情報が不足していた。
深部横断摩擦は、肘外側腱炎または膝外側靭帯炎の疼痛、握力の改善および機能状態に対して臨床的に重要な有益性があることを示すエビデンスが発見されなかったことから、深部横断摩擦の有効性を評価するにはエビデンスが十分ではない。肘外側腱炎または膝外側靭帯炎の治療に深部横断摩擦マッサージを理学療法と併用した場合、理学療法単独に比較して、効果の予測値の信頼区間はヌル値との重なりが認められた。これらの結論は、採用したランダム化比較試験のサンプルサイズが小さかったため、限られたものとなった。肘外側腱炎に対する深部横断摩擦マッサージの特定の有効性に関して結論を導くには、十分なサンプルサイズで登録し、特定の手法を用いた試験を今後実施する必要がある。
深部横断摩擦マッサージは、腱炎の疼痛管理に提唱されているいくつかの理学療法のひとつで、イングランドの有名な整形外科医、James Cyriaxが19s30年代に初めて発表した。その目的は異常な線維性癒着や異常な瘢痕化を予防することである。本システマティック・レビューは2001年発表のレビューの更新である。
肘外側腱炎または膝外側靭帯炎の治療に対する深部横断摩擦マッサージの有益性と有害性を評価すること。
Cochrane Field of Physical and Related Therapies(中央登録)、Cochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL)、MEDLINE, EMBASE、Cumulative Index to Nursing and Allied Health Literature(CINAHL)、Clinicaltrials.govおよびPhysiotherapy Evidence Database(PEDro)の電子データベースを2014年7月まで検索した。検索の範囲を広げるために、検索した試験の参考文献リストを調べた。
適格とした腱炎のふたつのタイプ(橈側手根伸筋の炎症[肘外側腱炎、テニス肘または外側上顆炎/上腕骨外側上顆炎]および腸脛靭帯摩擦症候群[膝外側靭帯炎])を対象に、深部横断摩擦マッサージを対照群や積極的介入群と比較したランダム化比較試験(RCT)および比較臨床試験(CCT)をすべて選択した。英語およびフランス語で発表された試験に限って採用した。
2人のレビュー著者が独立して、組み入れ基準および除外基準に基づいて試験を評価した。レビューを開始する前に準備した抽出書式を用いて、採用したそれぞれの試験から2人のレビュー著者が独立して試験結果を抽出した。3人目のレビュー著者がデータを確認した。コクラン共同計画の「バイアスのリスク」ツールを用いて、採用した試験のバイアスのリスクを評価した。統合分析では、95%信頼区間(CI)とともに、連続アウトカムには平均値の差(MD)、2値アウトカムにはリスク比(RR)を用いた。
参加者57例が対象となった2件のRCT(今回の更新で新たに加えられた試験はない)が、組み入れ基準に適合した。この2件の試験は、施行バイアスおよび検出バイアスのリスクが高く、さらに選択バイアス、症例減少バイアスおよび報告バイアスのリスクについては明らかでなかった。
ひとつめの試験は、肘外側腱炎の40例を登録し、(1)深部横断摩擦マッサージ、超音波治療およびプラセボ軟膏の併用療法(n=11)と超音波治療およびプラセボ軟膏(n=9)との比較、さらに(2)深部横断摩擦マッサージとフォノフォレシスとの併用療法(n=10)とフォノフォレシス単独療法(n=10)との比較を実施した。深部横断摩擦マッサージ、超音波治療およびプラセボ軟膏の併用療法群と、超音波治療とプラセボ軟膏のみの群との比較に関して、5週以内では、0~100の視覚的アナログ尺度(VAS)で評価した疼痛(MD -6.60、95%CI -28.60~15.40;7%の絶対的改善)、キログラム単位で測定した握力(MD 0.10、95%CI -0.16~0.36)および0~100のVASで評価した機能(MD -1.80、95%CI -0.18.64~15.04;2%の改善)、痛みを感じない項目の数で評価した無痛の機能的指標(MD 1.10、95%CI -1.00~3.20)および機能状態(RR 3.3、95%CI 0.4~24.3)の変化の平均値は、いずれも統計学的な有意差が報告されなかった。同じく、深部横断摩擦マッサージとフォノフォレシスとの併用療法と、フォノフォレシス単独療法の比較でも、疼痛(MD -1.2、95%CI -20.24~17.84;1%の改善)、握力(MD -0.20、95%CI -0.46~0.06)および機能(MD 3.70、95%CI -14.13~21.53;4%の改善)に有意差は認められなかった。さらに、疼痛アウトカムのエビデンスの質を評価するために用いたGRADE(Grades of Recommendation, Assessment, Development and Evaluation)のスコアでは「きわめて低い」と判定された。30%以上の除痛効果、生活の質、患者の総合評価、有害事象および有害事象による中止は、評価されていないか報告されていなかった。
ふたつめの試験は、腸脛靭帯摩擦症候群(膝外側靭帯炎)の17例を登録し、2週間の時点で深部横断摩擦マッサージと理学療法の併用療法を理学療法単独と比較した。深部横断摩擦マッサージと理学療法の併用療法は、0~10のVASで除痛を評価した日常の疼痛(MD -0.40、95%CI -0.80~-0.00;4%の絶対的改善)、走行時の疼痛(0~150のスケール)(MD -3.00、95%CI -11.08~5.08)および走行中の最大疼痛の比率(MD -0.10、95%CI -3.97~3.77)の3項目で、理学療法単独との比較に統計学的な有意差は認められなかった。疼痛アウトカムに関しては、疼痛緩和で4%の絶対的改善が示された。しかし、エビデンスの質は「きわめて低い」とする評価であった。30%以上の除痛効果、機能面、生活の質、患者の総合的な改善効果に対する評価、有害事象および有害事象による中止は、評価されていないか報告されていなかった。
《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2015.12.29]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。