早期乳癌手術後の女性患者に対するタキサンを含む化学療法

本レビューの目的

このコクランレビューの目的は、早期乳癌の女性患者に対してタキサン系薬剤を標準化学療法に加えることによって生存期間が改善するか、また薬剤を追加することが安全かどうかを明らかにすることであった。この論点への答えを出すために、レビュー著者らがあらゆる試験を収集して解析し、29件の試験を特定した。

要点

手術可能な早期乳癌を有する女性患者では、タキサン系薬剤を標準化学療法に加えることにより、生存期間が改善され(患者がより長く生存した)、癌の再発の可能性が低減した。しかし、タキサン系薬剤の使用が発熱性好中球減少(発熱を伴う白血球数減少)およびニューロパチー(神経への障害)など一部の副作用のリスクの増加につながった見込みが高い。

本レビューの検討内容

早期乳癌とは、乳房または隣接リンパ節を超えた遠隔への転移がみられない癌である。また、早期乳癌は手術のみで治癒する可能性があるが、手術後に再発するリスクがある。治癒を得るためには、手術後に化学療法と放射線療法が必要である。

通常、早期乳癌の治療には、化学療法の単剤療法よりもむしろ併用療法が使用される。

よく使用される化学療法薬の1種として、タキサン系薬剤がある。タキサン系薬剤は、細胞が分裂するのに必要な細胞プロセスを抑制することにより作用する。この作用によって、癌細胞の分裂が停止し、癌の増殖が遅くなるか細胞が死滅する。現在、2つの主なタキサン系薬剤、すなわちパクリタキセルとドセタキセルが使用可能である。

臨床試験のデータが得られるようになるにつれて、標準化学療法にタキサン系薬剤を加える抗癌治療は過去10年の間に増加した。タキサン系薬剤の有用性、副作用および治療が女性患者の全体的なウェルビーイング(心身のみならず社会的にも良好な状態)(QOL)にどのように影響するかを明らかにするために、これらのデータを検討することが必要である。

本レビューの主な結果

レビュー著者らは41,911人の女性患者を含む関連する試験29件を特定した。これらの試験は、タキサンを含む化学療法とタキサンを含まない化学療法を比較していた。その約半数がパクリタキセルを使用し、残りの半数がドセタキセルを使用していた。パクリタキセルとドセタキセルのどちらを使用するかは、通常は院内でその薬剤を利用できるかどうかに基づいて判断された。薬剤は静脈から注射された。

患者の健康状態は、試験開始から少なくとも12カ月間観察された。なかには患者を10年間観察したものもあった。

タキサン系薬剤を化学療法に加えることによって、以下の結果が得られた。

・タキサンを併用しない化学療法と比較して、生存率が改善し、がんの再発リスクが低減した

・タキサンを併用しない化学療法と比較して、一部の副作用が発現する確率がおそらく高くなる。タキサンによって発現する可能性が高い副作用は、発熱性好中球減少(発熱を伴う白血球減少)およびニューロパチー(神経の障害)であった

・タキサンを併用しない化学療法と比較して、心機能にはほとんどまたは全く差がない可能性が高い

・タキサンを併用しない化学療法と比較して、患者のQOLにはほとんどまたは全く差はないであろう。29件の試験のうち7件から患者のQOLについての情報が得られた。

化学療法にタキサンを加える費用についての情報はほとんど得られず、欧州で実施された試験1件のみが、費用対効果のデータを報告していた。

本レビューはどれくらい最新のものなのか。

本レビュー著者らは、2018年7月までに公表された試験を検索した。

訳注: 

《実施組織》一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)『海外癌医療情報リファレンス』(https://www.cancerit.jp/) 串間 貴絵 翻訳、小坂 泰二郎(社会医療法人石川記念会HITO病院乳腺外科・化学療法室)監訳 [2019.12.03]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン・ジャパンまでご連絡ください。 なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD004421》

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