レビューの論点
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の不妊症女性において、未熟卵体外成熟は標準的な生殖補助医療(ART)と比較して有効か?
背景
従来法のARTを受けるPCOS女性は、卵子の成長を刺激する排卵誘発剤を使用した女性に発症することがある卵巣過剰刺激症候群のリスクが増大する。これは左右の卵巣の増大、肺や心臓の周囲を含む体内の液体貯留、重篤な病態、そしてまれに死亡を引き起こす。PCOS女性が投薬を受けて卵巣を刺激すると、作られた卵子はしばしば未熟であり、卵子が受精せず妊娠率が低くなる主な原因となる。加えて前述のように、PCOS女性に薬物を用いて卵巣刺激するとしばしば卵巣過剰刺激症候群になる。このような女性に対して、早期に卵子を採取し培養室で成熟させる、未熟卵体外成熟(IVM)という技術を用いれば、これらのリスクを軽減できるかもしれない。しかし、IVM卵子による受精、胚の発育、正期産が報告されている一方、生まれてくる子どもの健康状態や遺伝的異常の発生率など、安全性についての懸念が示されている。2018年4月までのエビデンスについて、3回目となるレビューを行った。
研究の特徴
PCOSを有する不妊女性に対する従来のARTとIVMの有効性を比較検討したすべてのランダム化比較試験(ランダムな方法で参加者を治療群に割り付けた研究)について、コクランの婦人科および生殖グループの専門家と協議して、標準的な医療データベースの包括的な文献検索を行った(データベースの設立から2018年4月17日まで)。言語や国によらず研究を検索し、対象とした。2人のレビュー著者が独立して研究を選択・評価し、データを抽出し、データが不足している場合は研究の著者に連絡を試みた。国際学会でアブストラクト(抄録)として発表された、71例を含む2件の研究と、現在進行中の6件の研究が対象となる条件を満たしていた。
主な結果
IVM技術について有望なデータが発表されてきているが、PCOS女性に対するART前のIVMを臨床的に推奨する根拠となるような、主要評価項目としての生産率と流産率に関する、適切に実施されたランダム化比較試験に基づくエビデンスはまだ存在しない。このレビューにおける副次的な評価項目では、非常に質の低いエビデンスによると、IVMと従来のARTを比較した場合、IVMで臨床的な妊娠率が高かった。一方、卵巣過剰刺激症候群の発生率は両群ともゼロだった。現在進行中の6件の試験の結果が待たれており、より質の高い試験による更なるエビデンスが期待される。
エビデンスの質
すべての結果について、エビデンスの質は非常に低かった。
《実施組織》内藤未帆、杉山伸子 翻訳[2021.09.09]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD006606.pub4》