既報の平易な要約Appendix 1.
統合失調症に対する第一選択治療は通常、抗精神病薬の投与である。これらの薬剤は一般的に、統合失調症の陰性症状よりも陽性症状の治療に効果を発揮する。さらに、抗精神病薬には体重増加、動揺、振戦、筋硬直といった消耗性副作用がある。
ダンス療法(ダンスムーブメント療法:DMTとも言う)は言葉を使わずに動きとダンスで人の感情を探り出す療法である。セラピストは個人のダンスと動きを読み取って、その人の動きと感情を結びつける手助けする。ダンスは人類の歴史の初期の段階から、治療の儀式として行われていた。しかし、専門的なダンス療法として確立されたのはごく最近のことである。ダンス療法は、すべての年齢、人種、性別に用いることができる。医学的、社会的、発達的、身体的、精神的に問題がある人の治療に効果的である。このレビューには45例の参加者を対象とした研究1件が含まれた。ダンス療法を標準治療または他の介入と比較する目的で実施した。定期治療にダンス療法を併用した場合と、定期治療単独の場合を比較した研究1件が含まれた。ダンス療法を実施した群としなかった群の間で治療満足度、心理状態、早期研究離脱、生活の質などのアウトカムに差は概ね認めらなかった。しかしながら、ダンス療法の参加者は、陰性症状の有意な改善を示した。
全体として参加者数が少数だったため、その結果は限定的であった。ダンス療法に対する賛否いずれのエビデンスもほとんど認められなかった。重要なアウトカムに焦点をあてた(再発率、生活の質、入院率、研究早期離脱、治療コスト、治療満足度など)大規模な研究と臨床試験が必要である。統合失調症患者、特に抗精神病薬に十分に反応しない陰性症状を有する患者に対し、ダンス療法が効果的かつ包括的治療方法となり得るかどうかを明確にするには、さらなる研究が必要である。
このサマリーは利用者の一人Ben Gray により書かれた。 (Benjamin Gray, Service User and Service User Expert Rethink Mental Illness, Email: ben.gray@rethink.org).
大部分は品質が中等度のデータであることから、本疾患患者に対するダンス療法の賛否に関するエビデンスは存在しない。統合失調症に対するダンス療法はまだ不明な点が残されており、介護者、試験実施者、資金提供者らはこの領域に関してさらに高品質なエビデンスを有する今後の研究を期待する。
ダンス療法あるいはダンスムーブメント療法(DMT)とは「個々の感情的、社会的、認知的、身体的統合を促す過程として動きを心理療法に用いること」と定義される。これはおそらく、発達的、医学的、社会的、身体的、心理的に問題のある人に価値があるであろう。ダンス療法はメンタルヘルスリハビリテーション科、介護施設、デイケアセンターで訓練する、あるいは疾患予防やヘルスプロモーションプログラムの中に組み入れることができる。
統合失調症あるいは統合失調症類似疾患を有する患者に対する、標準治療または他の介入と比較したときのダンス療法の効果を評価すること。
2007年7月に検索したコクラン統合失調症グループのオリジナル登録を2012年7月にアップデートした。また中国の主要な医学データベースも検索した。
統合失調症患者に対するダンス療法と標準治療や他の心理学的介入を比較検討したランダム化比較試験(RCT)1件が含まれた。
信頼性のある選択、質の評価、データの抽出を行った。連続アウトカムには平均差(MD)を算出し、2値アウトカムには固定効果リスク比(RR)と、その95%信頼区間(CI)を算出した。GRADE手法を用い知見をまとめた結果を表にした。
適切な質の単純盲検試験1件(総n = 45)が含まれた。この試験では定期治療にダンス療法を併用した群と定期治療単独群を比較した。参加者のほとんどが治療に対し忍容性を示したが、両群ともに約40%が4カ月までに脱落した。(1 RCT n = 45、 RR0.68 95% CI 0.31 -1.51、エビデンスの質は低い)。陽性・陰性症状評価尺度(Positive and Negative Syndrome Scale :PANSS) によるエンドポイントにおける平均総スコアは両群にとも同等であった。(RCT1件 :n = 43, MD -0.50 95% CI -11.80-10.80,エビデンスの質は中等度) サブスコアは陽性(RCT1件:n = 43, MD 2.50 CI -0.67 -5.67,エビデンスの質は中等度)。 治療終了時点において、PANSS陰性症状スコアを20%以上減少させた症例数はダンス療法群の方が有意に多く(RCT1件:n = 45,、RR 0.62 CI 0.39 -0.97、エビデンスの質は中等度)。全体的に、陰性エンドポイントスコア平均値はより低かった(RCT1件:n = 43, MD -4.40 CI -8.15 to -0.65,、エビデンスの質は中等度)。 満足度スコアでは差が認められなかった(Client’s Assessment of Treatment Scale (CAT) 平均スコア、 RCT1件:n = 42, MD 0.40 CI -0.78 -1.58,エビデンスの質は中等度)。また、生活の質データも同等であった(Manchester Short Assessment of Quality of life (MANSA) 平均スコア、 RCT1件:n = 39, MD 0.00 CI -0.48 -0.48,エビデンスの質は中等度)。
《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2016.1.1]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。