心血管系疾患危険因子の治療におけるGanoderma lucidum(キノコの霊芝)

心血管系疾患危険因子とは?

心血管疾患とは心臓発作や脳卒中など、心臓や循環系(体内の血流)に影響するあらゆる疾患の病名である。心血管系疾患の危険因子は高血圧、高血糖、高コレステロールである。心血管系疾患危険因子がある人は、危険因子がない人よりも心臓発作や脳卒中を起こしやすい。

Ganoderma lucidumとは?

Ganoderma lucidumは霊芝とも呼ばれるキノコで、中薬としてよく用いられている。中国ではG lucidumを煎じて(すりつぶして煮出す)服用するのが伝統的であるが、お茶やコーヒーに入れることもある。最近では、抽出物が錠剤やカプセルとして欧米向けに製造されており、心血管系の健康増進を目的として欧米でも使用されている。

本レビューの目的

コクラン共同計画の研究者は、プラセボと呼ばれる偽薬や他の薬剤と比較して、G lucidumは心血管系疾患危険因子を低下させるうえで有効な治療なのかを調べた。

本レビューで分かったこと

研究者は2014年6月までの医学文献を検索し、関連性のあるすべての医学研究を同定した。計398例の2型糖尿病がある人を対象に、G lucidumとプラセボを比較した5件の医学研究を同定した。全般的に研究の質は低かった。5件のうち2件では未発表データを取得し、1件は中国語から翻訳された研究であった。G lucidumの摂取量は1日1.4 g ~5.4 gと試験間で異なっていた。1件の試験では、G lucidum群の参加者はG lucidumのみを含むカプセルか、真菌類のCordyceps sinensis(カプセル重量の25%)とG lucidum(カプセル重量の75%)の混合のいずれかを服用した。試験期間は12~16週であった。

5件中2件の試験では、G lucidumを投与した参加者の結果のみについて報告し、プラセボを投与した参加者の結果はなかったため、これらの情報は使えなかった。残りの3件の試験における157例の情報を解析に用いた。

この情報により、G lucidumは血糖値、血圧、コレステロールを低下させるのに有効な治療ではないことが示された。G lucidumが食後の血糖値を低下させるのかについては、1件の決定的でない研究の情報しかないため、不明であった。

G lucidumの摂取に関する全般的な安全性について判断するには情報が不十分であった。1件の研究では、G lucidumを摂取した参加者で悪心、下痢、便秘といった軽度の有害性に関するリスクがやや増加することが示された。

この分野に関する今後の研究は、適切な報告を伴う臨床試験とするべきである。

著者の結論: 

少数のランダム化比較試験によるエビデンスでは、2型糖尿病がある人の心血管系疾患危険因子の治療を目的としたG lucidumの使用を支持していない。G lucidumの有効性に関する今後の研究は、臨床試験の報告基準を遵守したプラセボ対照試験とするべきである。

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背景: 

Ganoderma lucidumは霊芝とも呼ばれるキノコで、幅広い薬効成分があり、アジアでは2000年以上使われている。G lucidumは心血管系の健康を目的とした補完療法として、欧米で人気が高まっている。

目的: 

薬理学的に修正可能な心血管系疾患の危険因子がある成人の治療において、G lucidumの有効性を評価すること。

検索戦略: 

コクラン・ライブラリのCochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL、2014年第6号)、MEDLINE(OVID、1946年~2014年6月第3週)、EMBASE(OVID、1980年~2014年第26週)、Science Direct(1823年~2013年)、Current Controlled Trials(1990年~2013年)、Australian New Zealand Clinical Trials Registry(2005年~2013年)、Chinese Biomedical Literature Database(2007年~2013年)、Chinese Medical Current Contents(2007年~2013年)、および他のデータベースを検索した。選択した研究の参考文献リストを調べ、当該分野の専門家に連絡を取り、International Journal of Medicinal Mushroomsを手作業で調べた。言語や発表の有無による制限は設けなかった。

選択基準: 

心血管系疾患危険因子の治療を目的としたG lucidumに関するランダム化比較試験および比較臨床試験。主要アウトカムは血糖値、血圧、脂質プロファイルとした。

データ収集と分析: 

2名の著者がそれぞれ試験を選択し、バイアスのリスクを評価し、データの抽出や解析を照合した。3人目の著者により相違を解決した。

主な結果: 

計398例を対象とした5件の試験を適格として選択した。1件は中国語で発表された研究の英訳であった。1件は発表後、試験著者が追加データを本レビューに提供した。1件は未発表で試験著者がデータを提供した。2件は統計解析に適した群間比較データが示されていなかった。統計解析にデータを使用した3件の研究では、G lucidum(1.4 g ~ 3 g /日)とプラセボによる12 ~ 16週間の介入を比較した。3件の研究では選択基準が異なるが、すべての参加者が2型糖尿病であった。バイアスのリスクは5件の研究のうち1件が低く、他の4件は不明であった。

以下について2件の研究結果では、G lucidumによる統計的または臨床的に意味のある低下はみられなかった。HbA1c:WMD -0.10%、95% CI -1.05% ~ 0.85%、130例。総コレステロール:WMD -0.07mmol/L、95% CI -0.57 mmol/L ~ 0.42 mmol/L、107例。低比重リポ蛋白コレステロール:WMD 0.02 mmol/L、95% CI -0.41 mmol/L ~ 0.45 mmol/L、107例。肥満度指数:WMD -0.32 kg/m2、95% CI -2.67 kg/m2 ~ 2.03 kg/m2、107例。その他の解析はすべて、84例を対象とした1件の研究によるものであった。空腹時血糖の改善はみられなかった(WMD 0.30 mmol/L、95% CI -0.95 mmol/L ~ 1.55 mmol/L)。食後血糖値の結果には一貫性がなく、食後2時間の血糖値はプラセボのほうが良く(WMD 0.7 mmol/L、95% CI 0.29 mmol/L ~ 1.11 mmol/L)、食後4時間の血漿グルコース曲線下面積はG lucidumのほうが良かった(WMD -49.4mg/dL/h、95% CI -77.21 mg/dL/h ~ -21.59 mg/dL/h)。Minimal Clinical Important Differences(臨床的に意味のある最小差)が分かっていないため、この影響の臨床的重要性は不明である。血圧や中性脂肪について、両群に統計学的な有意差はなかった。G lucidumを4カ月間服用した参加者では、有害事象の発生率がプラセボを服用した参加者の1.67倍であったが(RR 1.67 95% CI 0.86 ~ 3.24)、重篤な副作用ではなかった。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2018.3.3]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 
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