本レビューの目的
本コクランレビューでは、潰瘍性大腸炎患者に対して、プロバイオティクスによって寛解を維持できるかどうかを明らかにすることを目的とした。この目的を達成するために、12件の研究から参加者計1473例のデータを収集して解析した。
要点
潰瘍性大腸炎患者の寛解をプロバイオティクスによって維持できるかという疑問には、依然として回答が得られない。プロバイオティクスをプラセボと比較したところ、重篤な有害事象はなかった。しかし、1件の研究が、プロバイオティクスを使った人および5-アミノサリチル酸(5-ASA、潰瘍性大腸炎や他の疾患の治療に用いられる抗炎症剤)を使用した人では、重篤な有害事象の発生件数が同等であったと報告していた。そのような重篤な有害事象に関する詳しい情報は提供されていなかった。
本レビューからわかったこと
潰瘍性大腸炎は、大腸に炎症(腫れ)を引き起こす慢性疾患である。その症状には腹部痛、下痢、疲労などがある。プロバイオティクスは生きた微生物であり、腸内細菌の増殖を変化させて、炎症を抑えると考えられている。
レビューの主な結果
プロバイオティクスとプラセボ(偽薬)、プロバイオティクスと5-ASA、プロバイオティクスと5-ASAの併用と5-ASA単独それぞれを比較したランダム化比較試験(参加者が2つ以上の治療群のひとつにランダムに割り付けられる臨床試験、randomised controlled trials:RCT)を検索した。参加者計1473人を対象としたランダム化比較試験(RCT)12件が見つかった。各試験とも成人の男性および女性を対象としていた。参加者が比較した治療薬以外の医薬品を服用することを禁じていたことを明確に述べていたのは3件のみであった。
1) プロバイオティクスをプラセボと比較したとき、臨床的に再燃した人数に明らかな差はなかった。
2) プロバイオティクスを5-ASAと比較したとき、臨床的に再燃した人数に明らかな差はなかった。
3) プラセボと比較して、プロバイオティクスが臨床的な寛解を維持できる人数に差をもたらすかどうかは、エビデンスの質が非常に低いため、確かではない。
4) プロバイオティクスを5-ASAと比較したとき、臨床的な寛解を維持できた人数に明らかな差はなかった。
5) プロバイオティクスと5-ASAの併用を5-ASA単独と比較したとき、臨床的な寛解を維持できた人数に明らかな差はなかった。
6) 5-ASA単独と比較して、プロバイオティクスと5-ASAの併用が臨床的に再燃する人数に差がもたらすかどうかは明らかではない。
7) プロバイオティクスをプラセボと比較した試験では、重篤な有害事象の報告はなかった。プロバイオティクスを5-ASAと比較した試験1件では、両治療による重篤な有害事象の発生件数は同等であったと報告されていた。治療中止は血便、悪心、下痢、腹痛などの消化器障害によるものであった。
8) 他の治療と比較して、プロバイオティクスが参加者の生活の質(Quality of life:QOL)にどのような影響を与えるのか、追加の治療法が必要かどうかに関する十分な情報は、対象とした試験からは得られなかった。
結論
プロバイオティクスによって潰瘍性大腸炎の人の寛解を維持できるかどうかは明らかではない。その理由は、各研究とも参加者数が非常に少なく、信頼できる方法で実施されていなかったためである。対象とした研究に示された科学的根拠(エビデンス)では、プロバイオティクスの効果に説得力のある結論を出すことはできない。より多くの参加者を対象にした、優れたデザインの研究が必要である。
本レビューの更新状況
本レビューは、 2019 年10月現在のものである。
《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2020.12.28] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD007443.pub3》