化学療法を受けている乳癌患者における感染合併症を予防するためのコロニー刺激因子予防投与

化学療法を受けている乳癌患者では、感染予防に働く白血球の数が少ない(好中球減少症)ため感染症にかかる危険性が高くなります。 好中球減少症は、多くの化学療法薬の高頻度の副作用で、骨髄が抑制されることによって起こります。 発熱は通常、感染の最初の症状で、好中球減少症が非常に重症の際に起こると致命的な状態である可能性を示します[発熱性好中球減少症(FN)]。 FNによって、静脈内投与の抗菌薬の使用などの入院治療が必要になり、化学療法の継続が遅れる可能性があります。 コロニー刺激因子(CSF)は、FNと好中球減少症の罹病を予防、減少しその期間を短縮するために化学療法中に投与される薬です。 このレビューでは、化学療法中のCSF投与、プラセボ投与または無治療のいずれかにランダム化された乳癌患者2,156名を対象にした8件の試験を選択しました。 これらの試験の実施は1995~2008年でした。 CSFによる予防投与はFN発症の危険性を有意に73&低下させました。 FNを1イベント予防するためCSF治療を受ける必要のある患者の数は推定で12名でした。 化学療法およびCSF療法中のあらゆる原因による死亡率の有意な低下が認められましたが、感染関連死亡率の低下はありませんでした。 CSFが投与された場合、予定された化学療法スケジュールが適切に維持される、あるいは好中球減少症患者数がCSFにより減少する有意な効果はみられませんでした。 注目すべきはCSFにより入院治療の必要性が有意に減少したことですが、骨痛や注射部位反応のような短期の有害作用が頻回に起こりました。 この解析にはいくつかの限界があり、少数の試験しか選択されず、これらの試験の多くで患者は少数で、病期と化学療法は様々でした。 そのうえ、試験の著者らによるアウトカムの定義は異なっていたため研究の比較を行うことは困難でした。 主要アウトカムと副次アウトカムの情報をすべての試験からは入手できず、全体として報告の質は低いものでした。 多くの研究は古く、CSFの投与は現在の勧告に従ったものではありませんでした。 全体として、化学療法を受けている乳癌患者ではFN予防におけるCSFによる利益について中等度のエビデンスが示されました。 CSFの投与によりあらゆる原因による早期の死亡率が低下するというエビデンスは弱く、さらなる研究が必要です。 CSF治療による感染関連死亡リスクの低下はありませんでした。

著者の結論: 

化学療法を受けている乳癌患者ではFN予防においてCSFによる利益のエビデンスが示された。 信頼性は低いが、化学療法中の総死亡率の低下および入院治療の必要性の低下のエビデンスがみられた。 感染関連死亡率の低下、CSFに伴う用量強度のより高い化学療法の減少、重度の好中球減少症および感染の割合の低下について、信頼性のあるエビデンスは認められなかった。 CSFの使用による報告された有害事象の大多数は、骨痛および注射部位反応であったが、後期の副作用に関して結論は出せなかった。

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背景: 

大量、すなわち用量強化細胞傷害性化学療法により癌患者でしばしば骨髄抑制および重度の好中球減少症が起こる。 発熱を伴う重度の好中球減少症は、発熱性好中球減少症(FN)といい、通常、入院および静脈内投与の抗菌薬を必要とする、好中球減少症の最も重篤な病態である。 FNおよび好中球減少症により、化学療法の投与遅延や減量が起こり癌治療の有効性および治癒の見込みが損なわれる可能性がある。 顆粒球‐マクロファージ(GM)および顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)はFNおよび好中球減少症の罹病を予防、減少し期間を短縮するため、化学療法中に投与される。

目的: 

乳癌患者を対象にした化学療法中のFNの罹患率低下および期間短縮、ならびに総死亡率および感染関連死亡率の低下における予防的コロニー刺激因子(CSF)の効果を評価すること。

検索戦略: 

Cochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL)、 MEDLINE、EMBASE、HEALTHSTAR、International Health Technology Assessment、SOMED、AMEDおよびBIOSISを2011年8月8日まで検索した。 3件の中国のデータベース(VIP、CNKI、CBM)、metaRegister of Controlled Trials、ClinicalTrials.gov、 World Health Organization's International Clinical Trials Registry Platform(WHO ICTRP)およびOpenGrey.euを2011年8月まで検索した。

選択基準: 

何らかの種類の化学療法を受けている際にFN発症リスクのある、病期を問わない乳癌患者を対象に、CSF(用量を問わず)をプラセボまたは無治療と比較しているランダム化比較試験(RCT)。

データ収集と分析: 

二値アウトカムにはプールしたリスク比(RR)とその95%信頼区間(CI)を用いた。 2名以上のレビューアが別々にデータを抽出し選択した研究のバイアスリスクを評価した。 情報が不明の場合詳細について試験の著者らに連絡を取った。

主な結果: 

異なる病期、化学療法レジメンの乳癌の参加者2,156名を対象とした8件のRCTを選択した。 試験は1995~2008年に実施され、バイアスリスクは中等度以上と判断された。 評価可能な患者数が少なく、定義が多様であったほか、試験アウトカムの評価結果が不明であり支持的治療の影響が不明であったことが大きな原因で、 アウトカムの大多数についてエビデンスの程度は弱かった。 現在のガイドラインではCSFによるルーチンの一次予防を推奨しているため、 大半の試験で、化学療法レジメンのFNリスクは閾値以下であった。 CSFの使用により、FN患者の割合が有意に減少した[RR 0.27、95%CI 0.11~0.70、さらなる利益アウトカムを得るための治療必要数(NNTB)12]が、 G-CSFおよびGM-CSFの異なる効果、ならびにFNの異なる定義の可能性により説明可能な顕著な異質性があった。 プラセボまたは無治療に比べてCSF投与患者では早期死亡率の有意な低下がみられた(RR 0.32、95%CI 0.13~0.77、NNTB 79)。 本所見は患者2,143名での23件の致死的なイベントに基づくもので、23件中19件は1件の試験で起こり、17件は研究著者らによると疾患進行が原因であった。 感染関連死亡率では、CSF群とコントロール群に有意差はなかった(RR 0.14、95%CI 0.02~1.29)。 CSF投与患者では、入院リスク(RR 0.14、95%CI 0.06~0.30、NNTB 13)および静脈内投与の抗菌薬使用(RR 0.35、95%CI 0.22~0.55、NNTB 18)も有意に減少した。 重度の好中球減少症、感染、および化学療法の予定投与を維持できないリスクは、CSF投与群とコントロール群で変わらなかった。 CSFにより、骨痛[RR 5.88、95%CI 2.54~13.60、さらなる有害アウトカムを得るための治療必要数(NNTH)3]および注射部位反応(RR 3.59、95%CI 2.33~5.53、NNTH 3)が起こった。

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