背景
不安障害は、最もよくみられる精神障害に含まれる。森田療法は東洋哲学に基づいた系統的な精神療法であり、数十年間、不安障害の治療に用いられてきた。森田療法では、不安障害の患者に対して不安を自然な感情として受け入れるよう促すと同時に、絶対臥褥期、軽作業期、作業期、社会生活準備期の順番からなる4期を介して建設的な行動に患者を従事させる。受け入れるとは単に、目的のある行動に注意を再度向けることである。不安をなくすよう努力することをやめ、実際の個人的かつ社会的な生活において勉強や仕事で自分の欲望を満たすとき、患者は改善する。
不安障害の治療としての森田療法の有効性は、議論されてきた問題であり、意見が別れることがしばしばあった。現在、不安障害の治療における森田療法に対するエビデンスの強さを調べたシステマティック・レビュー(系統的かつ明確な方法を用いて、関連する研究を特定、選択、批判的に評価した、明確な言葉を用いた質問に言及しているレビュー)は、実施されていない。
試験の特性
不安障害の成人を対象に、薬物療法、その他の精神学的療法(話し合い療法など)、無治療または順番待ちリスト(治療を受けることを待つ)と森田療法を比較したランダム化比較試験(患者を複数の治療群の1つに割り付ける臨床試験)について、科学的データベースを検索した。エビデンスは2014年12月現在のものである。
主な結果およびエビデンスの質
参加者449例を対象とした小規模な中国の試験を7件検出し、本レビューに含めた。7試験中6試験のデータを解析に利用した。それらの試験では、全般性不安障害(さまざまな状況や問題について不安を引き起こす長期的疾患、1試験)、対人恐怖症(社会的状況や周囲の人々について持続的に恐怖を抱くこと、2試験)、強迫性障害(強迫観念を抱いたり繰り返し行動を行うこと、3試験)に対する森田療法を評価していた。しかし、これらの試験は小規模で、正確性に欠け、バイアスのリスクが高かったことから、不安障害の治療における森田療法の効果について結論を導くことはできなかった。本レビューから、不安障害に対する森田療法の有効性を評価する上で質の高い試験の必要性が浮き彫りになった。
不安障害に対する森田療法に関するエビデンスの基は限定的である。本レビューに組み入れたすべての試験は中国で実施されており、この結果は西欧諸国に適用できないと考えられる。組み入れたこれらの試験は小規模であり、脱落や有害作用に関する情報が不十分であり、バイアスのリスクが高かった。したがって、エビデンスの質は非常に低いと評価し、不安障害の治療における森田療法の効果について結論を導くことはできなかった。不安障害に対する森田療法の効果を確立するには、今後、十分にデザインされた試験にて、割付けについて十分に盲検化し、大規模な症例数を確保し、脱落、有害作用およびアウトカムについて明確かつ一貫して報告する必要がある。
1919年に初めて提唱された森田療法は、東洋哲学に基づいた不安障害に対する系統的な精神療法である。日本や中国などのアジア諸国において、不安障害に対する代替療法として主に用いられている。さまざまな治療アウトカムが報告されている。現在、不安障害における森田療法のエビデンスの強度を調べるためのシステマティック・レビューはない。
不安障害の成人を対象に、薬物療法、その他の精神療法、介入なしまたは順番待ちリストと森田療法を比較して、効果を評価すること。
2014年12月の本レビューのプロトコルに記載されているように、Cochrane Collaboration Depression, Anxiety and Neurosis Group's Specialised Register(CCDANCTR:MEDLINE[1950年〜現在]、EMBASE[1974年〜現在]、PsycINFO[1967年〜現在]から関連するランダム化比較試験を含む)、Dissertation Abstracts International(DAI)、4つの中国医療データベース(Chongqing VIP Database、Wanfang Database、China Hospital Knowledge Database、China Biology Medicine disc)を検索した。さらに、Cochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL)、World Health Organization International Clinical Trials Registry Platform (ICTRP)およびSagace(日本の生物医学データベースに関するウェブ上の検索エンジン)を検索した。日付や言語に関する制限は設けなかった。補足データについて当該分野における専門家に連絡を取った。
不安障害の治療において森田療法とその他の治療法を比較した関連するすべてのランダム化比較試験を組み入れた。
2名の著者がそれぞれ試験を選択し、データを抽出した。均質な二値データについて、固定効果リスク比(RR)、95%信頼区間(CI)、また、該当する場合、intention-to-treat基準においてさらに効果的なアウトカムを得るための必要治療数(NNTB)を算出した。連続データについて、固定効果標準化平均偏差(SMD)および95%CIを算出した。
中国で実施された7件の小規模試験(参加者449例)を検出し、そのうち6件のデータはメタアナリシスで使用できた。森田療法と偽対照を比較した試験はなかった。組み入れた試験において、ランダム化した方法の不明、盲検化の欠如、アウトカムの報告に関する質の不良がよくみられた。全般的なバイアスのリスクは高く、エビデンスの質は非常に低いと評価した。
対人恐怖症に関する2件の試験(外来患者75例)では、森田療法と薬物療法を直接比較していた。この比較において、全般的状態の統合RRは1.85(95%CI 1.27〜2.69)、NNTBは3(95%CI 2〜5)であり、短期間(治療後12週まで)での森田療法を支持する有意な群間差が示された。脱落に関するデータは不十分であり、有害作用に関する記述はなかった。主に、試験におけるバイアスのリスクが高く、結果に関する情報が不十分であることから、この比較におけるエビデンスの質は非常に低いと評価した。
森田療法+薬物療法と薬物療法のみの効果について調べた4試験(入院患者288例)のうち、3試験では強迫性障害(OCD)(参加者228例)、1試験では全般性不安障害(参加者60例)を対象とした。OCD試験の1件では、全般的状態に関して不完全なデータが報告されている一方、その他の3件では、全般的状態のアウトカムが欠失している。OCD試験の2件では、短期間における理由を問わない脱落について、有意な群間差は認められなかった(RR 1.76、95% CI 0.47〜6.67、I2= 44%)。有害作用のための脱落に関する情報は不明であった。この比較におけるバイアスのリスクは高いと評価した。エビデンスの質は非常に低いと評価した。
《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2018.3.13]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。
CD008619 Pub2