レビューの論点
がん患者は、好中球(白血球の一種)の数が減ると発熱する(発熱性好中球減少症という)ことがあるが、そのほとんどは化学療法によるものである。このような患者に対する外来での抗生剤治療は安全で有効なのか。
背景
好中球(白血球の一種)は細菌感染との戦いにおいて鍵となるものである。がんの治療を受けた患者は、しばしば好中球数が減少する。これは好中球減少症と呼ばれ、化学療法が原因であることが最も多い。好中球が減少すると感染症になりやすくなり、さらに感染症が重くなってあっという間に生命を脅かす状態になってしまうこともある。これを好中球減少性敗血症という。長年、好中球減少時に発熱がみられる(好中球減少性発熱)がん患者に対しては、重篤な好中球減少性敗血症の発症を防ぐために抗生剤が投与されてきた。好中球減少症の期間、がんの種類、年齢、またその他の症状により、患者を重篤な感染症を起こすリスクが高い群と低い群の2つに分けることができる。最近、経口抗生剤(口から飲む液体または錠剤の薬剤)による治療の有効性は静脈内投与(静脈内に薬剤を注入すること)と同程度であることが証明された。しかし、外来治療の安全性が入院治療と同程度であるかどうかは明らかでない。
試験の特性
本レビューには試験10件(994例)からのデータを用いた。同10件では、発熱性好中球減少症を発症したがん患者に対する外来での抗生剤治療(491例)と入院治療(503例)が比較されていた。うち6件は成人(628例)を、残り4件は小児(366例)を対象に行われた。全10件とも感染症の徴候(主に発熱)の消失に対する効果を比較しており、うち9件では死亡率(死亡)が評価されていた。8件では発熱の治療日数が記録されていた。5件では外来および入院での好中球減少の期間が比較されていた。5件で抗生剤の使用期間が解析され、6件で入院期間が検討されていた。2件では患者のQOL(生活の質)が評価されていた。
全10件のうち8件では、抗生剤による外来治療が早期退院プログラムの一部として行われていた。これは抗生剤を入院中に数日間投与してから、患者を退院させるものである。残りの2試験では自宅で抗生剤を開始していた。
主要な結果
発熱性好中球減少症を発症したがん患者(成人と小児ともに)の解熱を含む感染症の徴候の改善に関して、抗生剤による外来治療の有効性は入院治療とおそらく同程度である。外来治療と入院治療との間に、死亡率、抗生剤による治療期間、また抗生剤の使用に関連する有害事象の頻度の差はほとんどないか全くないことはほぼ確実である。外来治療は患者の入院治療に必要な日数を減少させると考えられる。
エビデンスの確実性
対象とした試験の確実性はおおむね中等度であった。
《実施組織》一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)『海外癌医療情報リファレンス』(https://www.cancerit.jp/)成宮 眞由美 翻訳、佐々木 裕哉(横須賀米国海軍病院血液内科・病理学)監訳 [2019.05.21] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン・ジャパンまでご連絡ください。 なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD009031》