血管性認知症に対する中薬(中医学の薬草療法)

背景

血管性認知症は、脳への血液供給に問題があることが原因で起こる認知症によく見られる病態である。全員ではないが、血管性認知症患者の中には脳卒中を発症する人もいる。血管性認知症の治療薬として認可されている西洋薬はない。中国では、中薬(中医学の薬草療法、Traditional Chinese herbal medicine:TCHM)が治療によく用いられる。

レビューの論点

TCHMが血管性認知症の有効な治療法であるか、またTCHMに何らかの有害性があるのかを明らかにする必要があると考えた。また、さらなる研究のために有望なTCHMを同定したいと考えた。

方法

血管性認知症の治療に関し、中国薬局方( Chinese Pharmacopoeia :CP)または 中国国家基本薬物目録(National Essential Drug List :NEDL)のいずれかに記載されているTCHMの使用を研究したランダム化比較試験(Randomised Controlled Trials ( RCT)を検索した。これらの研究では、参加者は、TCHMの投与群、またはTCHM無投与だがプラセボ(ダミー薬)群、西洋薬または脳卒中のリスクを低下させるための標準的な治療を受ける比較(対照)群のいずれかにランダムに割り付けられるべきであった。

結果

本レビューでは、18種類のTCHMを使用した参加者3581例を含む47件の試験を組み入れた。全ては1997~2013年に中国本土で実施され、参加者数は26~240例、平均試験期間は12週間であった。多くの試験の方法には重大な問題があり、特に参加者がどのように治療群に割り当てられたか、アウトカムがどのように測定されたか、有害性がどの程度徹底的にモニターされたかという点で問題があった。上記や他の理由のため、科学的根拠(エビデンス)の全体的な質を中等度から非常に低いと評価した。これは結果の正確性について確信がなく、多くの場合きわめて不確かであることを意味している。

これらの疑念にもかかわらず、TCHMと無治療または西洋薬と比較した試験で、それぞれ大きな効果の可能性がある7つのTCHMがみつかった。そのうちの3つ、Nao XinTong(脳心通)、NaoMaiTai(脳脈泰)、TongXinLuo(通心絡)には、さらなる研究を正当化する最も強力なエビデンスがあった。有害性のリスクは、NaoMaiTai(脳脈泰)およびTongXinLuo(通心絡)の対照群参加者のリスクと比較して少なくとも5%高いことがわかったが、このエビデンスの質は低かった。

結論

血管性認知症に対して一部のTCHMをさらに研究することが正当化されたと考えるが、試験の実施と報告の質が公表されたベストプラクティス基準に従って改善されることが重要である。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2019.09.30]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD010284.pub2》

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