なぜ認知症であるとわかることが重要なのか?
認知症は一般的で重要な疾患だが、認知症を抱えながら生活している人の多くは、認知症と診断されたことがない。認知症の診断を受けることで、社会的支援、アドバンス・ケア・プランニング(今後の治療について、本人・家族が医療従事者とあらかじめ話し合うこと)、特定の疾患では投薬治療などの機会が得られる。しかし、認知症がないのに誤って認知症と診断(偽陽性)されることは、本人や家族を苦しめ、診断に用いる検査の資源の浪費になってしまう。
本レビューの目的
本コクラン・レビューの目的は、入院および外来の診療にて患者の認知症を検出するための検査であるMini-Cogの精度を調べることである。この疑問を明らかにするために3つの研究をレビューに含めた。
本レビューで検討された内容
Mini-Cogは、3つの特定の物体を記憶し、同時に繰り返し、後で思い出す力を評価するという記憶力と思考力による短い検査である。さらに、検査を受ける人は、特定の時間に関する時計の文字盤を描くことが求められる。3つの物体の想起力と時計の文字盤の完成度を点数化する。Mini-Cogは、一般的に記憶力や思考力に問題があり、より詳細な評価のために、専門の医療機関を受診することが有益であるかどうかを確認するために使用される短い検査である。
主な結果
本レビューは参加者2,560人を含む3件の研究を対象とした。しかし、研究の著者らが、多くの参加者から収集したデータを使用しなかったため、レビューの目的を果たすために利用できる情報は1,415人の参加者から得られた結果しかない。
3件全ての研究は、ツールの開発者が推奨する方法でMini-Cogの結果を採点した。Mini-Cog検査の陽性が何を意味するかについては、3件の研究の間で明確なパターンはなく、要約した結論を出すことは困難であった。Mini-Cogの最高値と最低値の研究結果を用いて、640人(64%)の認知症患者が含まれる1,000人を対象に、二次的なケアとしてMini-Cogを使用した。その場合、推定510~557人がMini-Cogで陽性と判断され、そのうち0~126人が誤って認知症と分類されることが示された。認知症がないことを示す結果が出た443~490人のうち、83~256人は誤って認知症ではないと分類されてしまう。
本レビューの信頼性
対象となった研究では、認知症の診断は、詳細な臨床評価を用いて患者を評価した。詳細な臨床評価は、Mini-Cogが比較された基準となる。これは、本当に認知症になったかどうかを判断するための確実な方法だったと考えられる。しかし、調査対象者やMini-Cogの算出方法に問題があり、結果としてMini-Cogが実際よりも正確に見えてしまう可能性があった。Mini-Cogの平均的な性能を記述するために研究をグループ化することは、研究間の違いから適切ではないと判断した。
本レビューの結果は誰に適用できるか?
レビューに含めた研究は、アメリカ、ドイツ、ブラジルで行われた。2件の研究では、記憶力や思考力を評価する専門機関に紹介された患者を対象とし、1件の研究では内科外来に通院している患者を対象とした。最終的に認知症と診断された人の割合は32%~87%(平均64%)であった。
このレビューは何を示唆するのか?
Mini-Cogを使用した研究の数が少なく、その使用方法にばらつきがあったことから、Mini-Cogの使用を推奨するためのエビデンスは限られている。入院患者や外来患者の二次診療病院での使用を推奨するには、Mini-Cogが最良の検査ではない可能性があることが示唆されている。
レビューの更新状況
2019年3月までに公開された研究を検索・対象とした。
《実施組織》 冨成麻帆、小林絵里子 翻訳[2021.11.4]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD011414.pub3》