なぜ、卵巣がんの診断改善が重要なのか?
卵巣がんと診断された女性は、診断時に卵管や卵巣の外に転移していることが多いため、この病気で亡くなることが多い。卵巣がんを見逃した場合(偽陰性)には、大きな手術が必要となり、生存の可能性が低くなる場合がある。卵巣がんと誤って診断した場合(偽陽性)には、不安や不必要な追加検査、手術につながる可能性がある。
何を目的としているのか?
閉経前女性と閉経後女性の卵巣がんの診断に、超音波検査や血液検査がどの程度正確であるかを調べることを目的とした。
何がわかったのか?
次に示す4種類の検査を比較した59件の研究を対象とした。Risk of Malignancy Index (RMI:超音波検査とCA125の血液検査の併用)、 Risk of Ovarian Malignancy Algorithm (ROMA:CA125およびHE4の血液検査)、IOTA Logistic Regression model 2 (LR2) ultrasound、および the Assessment of Different NEoplasias in adneXa model (ADNEX:CA125の血液検査と超音波検査の併用)。
主な結果
閉経前の女性
それぞれの検査の感度(卵巣がんを有する女性を正しく診断する割合)は、ROMAで77.4%、LR2で83.3%、ADNEXで95.5%であり、RMIの57.2%に比べて高かった。
それぞれの検査の特異度(卵巣がんを有しない女性を正しく識別する割合)は、ROMAで84.3%、ADNEXで77.8%で、RMIの92.5%とLR2の90.4%より低かった。
この結果から以下のことが示唆される。もし、これらの検査が病院で閉経前の女性1000人に対して使用され、そのうち30人(3%)が実際に卵巣がんだった場合において、
- RMIでは13人、ROMAでは7人、LR2では5人、ADNEXでは1人の女性が、卵巣がんを見逃される(偽陰性)。
- RMIでは73人、ROMAでは152人、LR2では93人、ADNEXでは215人が、卵巣がんでないにもかかわらず卵巣がんと診断される(偽陽性)。
閉経後の女性
それぞれの検査の感度は、ROMAで90.3%、LR2で94.8%、ADNEXで97.6%であり、RMIの78.4%に比べて高かった。
それぞれの検査の特異度は、ROMAで81.5%、RMIで85.4%であり、LR2の60.6%とADNEXの55.0%よりも高いことが示された。
この結果から以下のことが示唆される。もし、これらの検査が病院で閉経後の女性1000人に対して使用され、そのうち30人(3%)が実際に卵巣がんだった場合において、
- RMIでは6人、ROMAでは3人、LR2では2人、ADNEXでは1人の女性が、卵巣がんを見逃される(偽陰性)。
- RMIでは142人、ROMAでは179人、LR2では382人、ADNEXでは437人が、卵巣がんでないにもかかわらず卵巣がんと診断される(偽陽性)。
結果の信頼性
卵巣がんの診断は、組織検査(手術で切除した標本を顕微鏡で観察してがんかどうか診断する検査)、または1年間女性を追跡調査し、卵巣がんがない状態を維持しているかどうか確認する方法で行われた。検査結果が陰性だった女性に対して、卵巣がんが見逃されていないことを確認するのに十分な期間の追跡調査をしていない研究があった。また、診断が困難なタイプの卵巣がんを有する女性を除外している研究もあった。そのため、実際の検査よりも精度が高く見えてしまっているかもしれない。
結果は誰に適用されるのか?
ほとんどの研究は、ヨーロッパの病院で、骨盤内に何らかの腫瘤が確認された女性を対象に行われたものである。そのため、対象となった研究における卵巣がんの発症率は、地域社会で見られるものよりはるかに高いため、これらの検査の精度は、専門家以外が関わる医療現場で検査を受ける女性にとっては異なる可能性がある。
レビューが意味することは何か?
このレビューから、骨盤内腫瘤で病院に紹介された閉経前後の女性において、ADNEXは卵巣がんの症例を見逃す数が最も少なく、RMIは卵巣がんの症例を見逃す数が最も多いことが示唆される。RMIは卵巣がんと誤診する数が最も少なく、ADNEXは卵巣がんと誤診する数が最も多いと考えられる。がんではないにもかかわらず卵巣がんと誤って診断される(偽陽性)と、不安になったり、不必要な追加検査や手術が行われたりすることがある。どの検査を使うか選択する際には、がんを見逃す可能性と不必要な検査や手術とのバランスを考慮する必要がある。
このレビューの更新状況
レビューには、2019年6月までに発表された研究が含まれている。
《実施組織》杉山伸子、内藤未帆 翻訳 [2022.10.20]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD011964.pub2》