子宮と卵管の摘出手術と、子宮単独の摘出術の卵巣がん予防効果について

レビューの論点

子宮と卵管を摘出する手術と子宮単独を摘出する手術の卵巣がん予防効果について、エビデンスを検討した。

背景

卵巣がんは女性生殖器において最も致命的な種類のがんである。卵巣がんはスクリーニングが有効でないため、予防手段が求められている。これまでの研究から、卵巣がんのほとんどが卵管から生じることがわかった。このことから、子宮摘出時の卵管の切除(卵管摘出術)は卵巣がんのリスクを低下させる可能性がある。出産を終えてしまえば卵管の機能は必要ない。また、卵管摘出術は簡単に行える術式である。

卵管摘出は予防手段であるため、重大な副作用やリスクがあってはならない。卵管摘出術でおこりうるリスクとして、手術の処置が増えることにより合併症の確率が高くなる可能性がある。他に可能性のあるリスクは、閉経が早まることである。卵巣と卵管は近くに位置しており、部分的に血液の供給を共有している。卵管に対する手術は、卵巣に対する血液の供給を部分的に傷害する可能性がある。この傷害が閉経を早める可能性がある。卵巣の予備能は血液中の抗ミュラー管ホルモン(AMH)濃度で測定できる。女性が年を取り閉経に近づくと、AMH濃度は低下する。

卵管摘出術の卵巣がん予防効果と安全性を調べるために、子宮卵管摘出術と子宮単独の摘出術とのリスクと利益について比較した。

試験の特性

子宮卵管摘出術と子宮単独の摘出術について比較した7つのランダム化比較試験を認めた。合計350人の女性が、良性の女性生殖器疾患に対して子宮摘出術を受けていた。エビデンスは2019年1月のものである。

主な結果

卵巣がんの発生率について、卵管摘出を伴う子宮摘出術と卵管摘出を伴わない子宮摘出術とを比較して報告した研究は見つからなかった。

子宮摘出術後に起こる合併症は、総じて非常に少ない。これは、このレビューに含まれる試験で起きた合併症が非常に少なく、合併症率について良好な比較を行うことが出来なかったことを意味する。

閉経について、卵管摘出を伴う子宮摘出術による違いは認められなかった。卵管摘出を伴う子宮摘出術後のAMH濃度は、卵管摘出を伴わない子宮摘出術後のAMH濃度よりも、1.89 pmol/L低い~0.01 pmol/L高い状態であった。AMH濃度の差について、最小(0.01 pmol/L)であれば閉経の発生に差はない。AMH濃度の差が最大(1.89 pmol/L)であれば、卵管摘出を伴う子宮摘出術では卵管摘出を伴わない子宮摘出に比較して最大20か月早く閉経する可能性がある。この結果は、AMHの年間平均減少量から算出した。

エビデンスの質

エビデンスの質は非常に低度から低度であった。エビデンスの主な限界として、合併症の数が少なく比較ができないこと、研究によって結果の指標が異なることがあげられる。また、研究の数、研究に含まれる女性の数、どちらも少なかった。

訳注: 

《実施組織》内藤未帆、杉山伸子 翻訳[2019.9.5]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。
《CD012858》

Tools
Information